新世界・Ⅱ
俺がこの世界に生まれて3年が経った。はいはいでしか行動できないもどかしさから解放され、2本足で歩くことができるようになったものの、元成人男性の俺にとっては、どうにも煩わしいことが多い。
まず目線が低い。1m程しかない食卓テーブルだろうと、その上に何があるのか、どうにか背伸びして覗き込もうとしても見ることは叶わない。
「頑張って背伸びする子供」傍から見ればけなげでかわいらしい様子に見えるのかもだけど、中身20過ぎのおじさんである俺にとってはただただ不自由なこと。だから今は階段付きのかわいい子供用のいすに座って食事を取っている。
それに体が動かしにくい。もともと身長170㎝程だった俺にいきなり(段階的といわれればまあそうだけども)何回りも小さい体が与えられたのだ。一挙手一投足に覚束なさが滲み出てしまう。
とは言え世の中の、この世界の三歳児もみんなそんなものだと思う。歩けば転ぶし、転んだら泣く。
されど三歳児恐れるなかれ、エネルギーはエネルギーは満タン、みんな動き出したくてたまらないのだ!俺も例に違わず、体からあふれる生命力に突き動かされるままに家中を歩き回り、結果、テーブルの脚に壁にぶつかりすってんころり。
···俺としてはこんなことで泣きじゃくりたくはないのだが、やはり体には逆らえないのか、俺の意思に反して、いつもワンワン泣いてしまう。
「あらあら、痛くしちゃったの?」
やさしい声がした。
泣き虫な俺にシエラはいつも魔法をかけてくれる。「痛いの痛いの飛んでけー」とかのおまじないじゃなくて、本当の魔法を。
シエラが擦りむいた俺の膝にやさしくてをかざすと、患部は優しい光にぱっと包まれ、たちまち痛みも傷跡もきれいさっぱり消えてしまった。···回復魔法だ。
シエラはいわば回復術師である。俺の家は質素な平屋だが隣にもう一つ小屋が併設されていて、シエラは診療所として利用していて、日中はそこで傷の手当や病人の診断をしている。内科外科問わずのお医者さんで、これで生計を立てている様だ。商売として成り立っているということは回復魔法は皆が使える魔法ではないのかもしれない。
もっとも、俺は日中「ある場所」に預けられてしまうので実情はよくわからないのだが。
···そしてこの三年間、俺の父親は一度も姿を見せなかった。
「ノエルー、教会に行く時間よー···」