進化
スライムは目を閉じたまま考え事をしていた。
(……あぁ、死んじゃったなぁ。……1回目は転生出来たけど流石に2回目はもう無いだろうな。そもそも俺は死んだ記憶も神様に会った記憶も無いだよな。これからどうなるんだろうな。)
もしかしたら今度こそは神様に会えるかもしれないと期待を膨らませる。
(……と言うか、全然、神様とか現れないな。異世界はあったから神みたいな存在が居てもおかしく無いのにな。もしかしてもう、天界や天国に居るのか?やっぱり居ないのかな?「ヂュヴゥゥゥゥ」……ん?なんでネズミの鳴き声がするんだ?)
確認しようと目を開ける。
スライムはラノベなアニメを見ていた影響で天国か神様が居る世界にいると思っていた。
綺麗な真っ白の世界があり、そこにまるで人形の様に作られた美形の一柱の神様がいる事を勝手に想像していた。
転生物では主人公はそこで第二の人生を始めるきっかけを神様からもらう、そういった場面が多くあったからだ。
しかし、実際に見た光景は土色で出来たダンジョンの壁と皮膚が剥き出して血だらけになっているネズミだった。
(は?!どう言う事だ?俺は死んだんじゃなかったのか?)
ネズミの事など一切気にせず今、自分に起きている事を驚くが、この動かしずらい体は確かに存在していた。
最初は動揺し混乱したが、ちゃんと動くか跳んだり、触手を出したりして確かめたりしている内に、徐々に生きている実感が湧いて来る。
しかしスライムは何故生きているのかが分からなかった。
確認しようとステータスを表示する。
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名前:なし
レベル:1
種族:スライム
HP:0/25
MP:15/25
攻撃:5
防御:5
俊敏:5
知力:100
種族スキル:『魔力生命体』
スキル:『魔力感知』『酸魔法Lv1』『水魔法Lv1』『再生Lv1』
ユニークスキル:『進化の可能性』
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どんなに見返してもちゃんとHPは0になっている。
死んでいるのに死んでいない、という不思議な体験をして混乱し、考えがまとまらないでいた。
実は不死身の体なのでは、と思ったがそれならHPという物は表記されない筈だ。
もし仮にそんなチートがあるなら、最初からスキル欄に書かれてあるだろうと自分の考えを否定した。
(スキルか、……なんか見落としている様な……)
不安な感情になり、もう一度ステータスを見てスキルの内容を思い出す。
そしてあるスキルを見て答えに気がつく事ができた。
(あっっ!そうか!『魔力生命体』か!確かこのスキルはMPが残っていれば死なないという物だったはず。)
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種族スキル:
『魔力生命体』
HPが0になってもMPがあれば死なない。また、MPが0になってもHPがあれば魔法を使える。体が魔力で出来た生物が取得できる。
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スライムはようやく謎に気が付き安堵する。
(なんだ、まだMPがあるから全然大丈夫だったじゃん。はぁ〜、良かった。)
こんな大事なスキルを忘れている自分に呆れるが同時に生きている事を喜ぶ。
まだまだ異世界を満喫する事が出来ると安心するとネズミの弱々しい声が段々と聞こえて来た。
さっきからずっと鳴き声を出してはいたが、スライムは自分の事だけ気にしていて完全に聞き流しており頭に入っていなかった。
そしてようやくネズミに意識を向ける。
(『アシッドショット』二発じゃ仕留めきれないのか。案外しぶといんだな。)
そこには灰色の毛が血に染まり、所々に皮膚が無くなっており、瀕死状態となっているネズミが生きる事を懇願する様に泣いていた。
完全にグロテスクな物で平和に生きてきた人であれば目を背けていただろうが、スライムは平然としていた。
普通のスライムで有れば感情なんて物は無いので何も不思議では無い、しかしスライムに転生したとは言え中身が人間であるにも関わらず、特に恐怖などは感じられなかった。
それは転生した事で人間の魂からスライムの魂へと変わってしまった為、死に対しての忌避感が薄れてしまったからである。
しかしスライムはこれからもモンスターを殺すつもりなので感情が邪魔して逆に殺されるなんて事があるかもしれないと考え、都合がいいと思った。
それに一度死にかけた事でこの世界は弱肉強食だという事を理解した。
また襲いかかって来る事を警戒し、ネズミに近づき『アシッドショット』を発動する。
苦しそうにもがいているネズミに容赦なくトドメを指す。
苦しみながらも逃げようとするが、緑色の液体が迫り為すすべも無く当たり、そして溶け出して今度こそ動かなくなる。
(地球にいた頃じゃ可哀想だど思い殺すのに躊躇うけど今はなんとも思わないな。でもそうじゃなきゃこの世界では生きていけないよな。)
変わってしまった心について考えていると急に頭からピコンと音が鳴った。
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが一定に達しました。進化が可能になりました〉
〈残りの経験値は進化した後に使われます〉
〈進化しますか?〉 〈Yes or No〉
(うわっ!急に来たな。しかも一匹倒しただけでこんなにレベルが上がるなんて、それに進化も出来んのか。楽しみだな。もちろん進化する。)
空中にプレートが浮かびスライムは迷う事なくYesを選択する。
すると新たなプレートが浮かび上がりその中にはスライムの進化先の種族名が複数書かれていた。
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・ブルースライム
・アシッドスライム
・ハイスライム
・ノーマルスライム
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(おぉ、四つも選択肢があるのか。迷うな、それぞれどんな特徴があるか知りたいな)
思った瞬間プレートが出てきた。
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・ハイスライム
スライムの上位種。体の動きが良くなる。
・アシッドスライム
酸魔法に長けたスライム。魔法の種類が増える。
・ブルースライム
水魔法に長けたスライム。魔法の種類が増える。
・ノーマルスライム
何も特徴が無いスライム。何にでもなれる。
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プレートにはそれぞれの特徴が書かれていた。
(ハイスライムは通常スライムの一個上でこれになるのが普通なんだろうな。アシッドスライムやブルースライムはハイスライムとは違って派生した進化先でそれぞれの技が得意になる様だな)
特徴を理解し、そして最後のスライムに目を向ける。
(このノーマルスライムってのはハイスライムとはどう違うんだ?何にでもなれるって変身とかが得意なのか?)
いまいち特徴が掴めず、選択肢の候補から除外する。
これからもっと強敵に合うかもしれないので攻撃が優れる様になる為にアシッドスライムやブルースライム、または動きやすくなるハイスライムに絞る。
3分位悩んだ結果、ネズミを倒せる事の出来た『アシッドショット』の威力を思い出し、それを強くしようとアシッドスライムに決めた。
プレートに書かれたアシッドスライムの文字に意識を向け、選択する。
するとスライムはダンジョン内を照らす様に光だした。
少し暗くなったり明るくなったりを点滅する様に繰り返して暫くすると光が収まった。
そして、そこには深碧の様な深い緑色のスライムがいた。
〈スライムからアシッドスライムに進化しました〉
〈『酸魔法』のレベルが上がりました〉
〈魔法『アシッドバレット』を獲得しました〉
〈魔法『アシッドウォール』を獲得しました〉
〈残りの経験値を使います〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
〈レベルが上がりました〉
触手を伸ばし、自分の色を確かめた。
(ほぉ、水色から緑色に変わったのか。というか進化ってどういう理屈で出来ているんだ?まぁ考えても分からんか。それより強くなったか確かめなきゃな。)
ステータスと心の中で唱える。
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名前:なし
レベル:13
種族:アシッドスライム
HP:112/112
MP:53/53
攻撃:28
防御:28
俊敏:11
知力:101
種族スキル:『魔力生命体』
スキル:『魔力感知』『酸魔法Lv2』『水魔法Lv1』『再生Lv1』
ユニークスキル:『進化の可能性』
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確認するとHPは112になっており、MPは53で攻撃、防御は両方とも28に、俊敏は11で相変わらず遅いままだ。
そして何故か知力が1上がっていた。
能力値の振り分けがどうなっているのかは分からないが進化した事で少し強くなった。
世界から見たらアシッドスライムの強さは決して強い方では無いが、初めてのレベルアップと進化という事で気持ちが昂る。
(よし!次は新しく獲得した魔法を試してみるか。『アシッドバレット』!)
『アシッドショット』と同じ様に魔力を5消費し、発動させるとビー玉のような小さな酸の塊が出来上がり、前方に勢いよく発射された。
発射速度や飛距離は『アシッドショット』よりも早く伸びていた。
そしてもう一つの方も発動しようとする。
(『アシッドウォール』!)
同じ魔力量を消費して、今度は酸が塊にはならずスライムから1メートル開けた所に、地面から酸の壁が発生し、5秒程で消えた。
(おぉー。これは今の俺にとっては大事なスキルだな、俊敏が低いから素早い敵を足止めできるのは良いな。)
ネズミとの戦いで『アシッドショット』を壁代わりにしていたがこれからは『アシッドウォール』で敵を止めてからスキルで攻撃する事が出来ると考えていた。
(これからレベルアップして進化すればもっと沢山のスキルや魔法が手に入るのか)
スキルが増えればそれだけ戦い方が広がる、そんな楽しみがこれからもある。
その事に今更気が付いた。
(よし!もっとおくに進むぞ!)
スライムは早速レベルアップして強くなろうと、ダンジョンの奥へと進んで行った。




