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初戦闘

 とあるダンジョンの最下層にある、一つの部屋に一人の男が座っていた。


 部屋には高そうなカーペットやシャンデリアなどがあり、一国の王でもいるかの様に豪華でゴミひとつもない綺麗な空間だ。

 男はその部屋の奥にある青紫色に輝く石の椅子に座っており、宙に浮かぶプレートを見ている。


 そのプレートには地上のスライムがいる洞窟が映されていた。


「ふむ、洞窟に繋がってしまったか。下はこれ以上増やせないし、上ももう増えないかぁ。あとは各階層の整備とモンスターの強化しか出来ないな。……」


 そう呟いた、この男は人間達が勝手に最高難易度のSランクに指定したダンジョンのダンジョンマスターであった。


 ダンジョンとは自然に作られた洞窟とは違い、ダンジョンマスターと言われる者が人工的に作り出した物のことを言う。

 世界中の至る所に存在し、ダンジョンによっては洞窟やマグマ、沼だったりしてその場所の環境に影響して地形、更にはモンスターまで変わる事がある。

 故にダンジョン全体の強さも千差万別あり、この世界にいる人達はランク制に分ける事にした。

 下からF、E、D、C、B、A、Sの7段階に分けられていて、これは沼や火山などの攻略しずらい地形だったり、中にいるモンスターの強さによって決めている。


 Sランクのダンジョンともなると人間種では太刀打ち出来ず、過去に英雄と言われた者達でもAランクのボスは倒せても、Sランクの5階層までが限界だった。

 昔はそれでも全階層制覇を目指して進んで行く者は多少いたが、今では存在すら知らない人がいる程減っていた。


 それに知っていた所で一階層を攻略出来るのはごく僅か。わざわざ死ににいく様な真似をする筈が無かった。


 そうした理由があり長年放置し、ろくに調査をしなかった結果ダンジョンマスターによって階層が増え、普通は繋がる筈のない真上にある洞窟にまで繋がってしまった。


 男は今後どうするか、暫く考えながらプレートをじっと見つめる。

 すると、ちょうどそこに彷徨っている様子の一匹のスライムが映った。


「こんな所にスライムを配置させた覚えはないが……いや、こいつは俺が生み出した奴じゃなく自然のスライムか、洞窟に繋がったせいで迷い込んだしまったのか」


 スライムが緑色や水色の球を打ち出したりした後、ダンジョンの奥へと進んで行く姿が映し出される。


「ほぅ、出口では無くダンジョンの方に進むのか。こいつは気配感知などのスキルを持ってないのか?いや、確か初期のスライムはそんなスキル持ってなかったな。雑魚とはいえ一階層のモンスターはノロマなスライムにはキツいだろうな。……まぁ、暇つぶしにこいつが死ぬまで観察するのもありだな。」


 男はニヤリと笑い画面に映るスライムがどうなるか楽しみにしていた。




—————————————————————————————



 スライムは監視されてるとも気付かず、辺りを見渡しながら進んでいく。

 そもそもここが洞窟からダンジョンに変わっている事すら知らないでいた。


(あれー?何も出て来ないな。もしかして一匹も生き物が居ないのか?テンプレだとそろそろ出て来てもおかしく無いんだがな。)


 そんな事を考えていると突然、チュヴゥゥゥゥというネズミの様な鳴き声が聞こえて来た。


 フラグって実際に有ったんだなと感心していると、その瞬間スライムは何かに当たり、為す術もなく天井ギリギリまで飛ばされていた。


(ぐっ!何だ!)


 突然の事で、どうなっているか状況が分からないまま、地面に落ちて転がる。


(何が起こった!?何も見えなかったぞ!)


 体勢を立て直したがスライムは誰に、何をされたかが分からず混乱する。

 

 だが、誰かに攻撃されたという事は瞬時に理解した。


 そしてスライムは何故か痛みを感じ無い事に気付き、不思議に思う。


 しかし、スライムは魔力で出来ており、痛みなどを感じる神経が無いので、別に不思議な事ではなかった。


(痛みを感じない生物だとしてもHPは減ってるかもしれないよな。)


 自分のHPがどうなっているか気になり、ステータスを表示させる。


 ーーーーーーーーーーーー

 名前:なし

 レベル:1

 種族:スライム


 HP:20/25

 MP:25/25

 攻撃:5

 防御:5

 俊敏:5

 知力:100


 種族スキル:『魔力生命体』


 スキル:『魔力感知』『アシッドショットLv1』『水魔法Lv1』『再生Lv1』


 ユニークスキル:『進化の可能性』

 ーーーーーーーーーーーー


 HPを見てみると、案の定25から20に減っていた。

 痛みは無いとはいえ、攻撃された衝撃などによってHPはダメージを負う事を知った。


(つまりさっきの攻撃を後4回受けると死ぬ。その前に何とかしなくちゃ行けない。とは言っても全然見えなかった。おそらく俊敏に極振りしたスピード特化のモンスターだな。俊敏5の俺にとって最悪な敵だ。いや、今の俺はどのモンスターでも取るに足らない雑魚モンスターだろうな)

 

 今の状況や敵の事を冷静に分析し、どう倒すか、またはどう逃げ切るか、ステータスを見て必死に考える。


 しかし敵は待ってくれない。

 思考している隙に自慢の素早さで、さっきとは逆の方から突進してくる。


 チュヴゥゥゥゥ


 鳴き声に気付き、回避しようとするが間に合わず同じ様に突き飛ばされ、HPが削られる。

 

(くそっ!早すぎる!どうにかしないと)


 正体不明の敵が突き進んだ方向を見る。


 確実にまた、こっちに向かってくる。

 そう思い、今度はこっちから仕掛けようとする。


(今持ってるスキルの中で攻撃力があるのは、『アシッドショット』しか無い)


 そこでスライムはある事を思い付いた。


 スキルを発動し、緑色の液体が球体の形に集まる。そのまま敵が来るまで、待機した状態になる様念じる。

 すると放出されず、目の前に緑色の球体が浮かび続けていた。


 スライムが考えたのは単純な物で、こちらに一直線に突進してくる敵に『アシッドショット』を浴びさせ、溶けて弱るのを待つ、という作戦だ。


 しかしその作戦が上手くいくには、敵が明らかに怪しげな緑色の物体を避けずにくる、という条件が必要である。

 

 それでも他に策が思いつかないので、この作戦に賭けるしか無い。


 チュヴゥゥゥゥ


 覚悟を決めた途端に敵が突進してくる鳴き声が聞こえてくる。

 今度はしっかり意識を向けてたからなのか、視界にねずみ色の塊が遠くから見える。


 その瞬間、また敵に突き飛ばさる。


 そしてジュウゥ、と何かが溶けている様な音が聞こえた。

 上手く当たったと思い、その方向に視線を向ける。


 ヂュヴゥゥゥーヂャァァアア!


 そこにはネズミが顔から溶けドロドロになりながら奇声を発し、ジタバタ動いていた。


(よし!上手く行ったな。これで後はトドメを指すだけだな。……にしてもこれは、グロいなぁ。さっさと終わらせるか。HPも後10しか残ってないからな。)


 決着は着いたと思い、トドメを指すために近づこうとする。


 しかしネズミは片目が溶けて無くなっただけで、もう片方の目はしっかり見えており、脳も無事だった。

 そのおかげでスライムが近づいて来るのは見えていた。

 

 この隙を逃す訳が無い。


 ヂュヴゥゥゥゥ!


 ネズミは何としてでもスライムを殺そうと力を振り絞りスキル『突進』を発動させた。


(は?!)


 突然ネズミの輪郭に赤色のエフェクトがかかり、イヤな予感を感じた。

 避けようとするも、速さでは勝てずまた飛ばされる。


(くそ!油断した!致命傷には至らなかった様だな。せっかくトドメを指すチャンスだったのに!逃げやがったなあの野郎!)

 

 スライムは作戦が上手く行き調子に乗っていたせいで敵に攻撃するチャンスを与えてしまった。

 

 そこでようやく、この世界で生きて行くには油断や慢心をしない事が必要だと言う事を知り、改めて気を引き締める。


(HPも後5しか無い。次、攻撃されたら死んでしまう。HPって自然に回復するのか?それともスキルやら、何やらでしか回復出来ないのか?もしそうだとするならめちゃくちゃピンチだ。何とかしないと。それにあのネズミがまた攻撃して来るかもしれない。)


 一旦、来た道に戻る。

 敵を倒す、いや殺す作戦を練るためにまずは回復に専念する。


 しかしネズミの執着は強く、相手が死ぬまで、追いかけ回す。相手に考える時間すら与えず、スキル『突進』を発動させた。


 ヂュヴゥゥゥウ!


(くそっ!やっぱ、逃すはず無いよなぁ。折角スライムに転生したのにもうここで終わりか、……でもどうせ死ぬならあのネズミも道連れにしてやる!『アシッドショット』!)

 

 緑色の液体が集まり球体の形になっていく。


 そしてネズミが突進して来た。


 さっきと同じ様に、目の前に強烈な酸があってもお構いなしに衝突し、なす術も無く飛ばされて行った。


(……あぁ、もっと異世界で活躍したかったなぁ。俺TUEEなんかもしたりして、……「ヂュヴゥヂャァアアァァァ……」……最期の悪足掻きもちゃんと効いたかは知らんが死ぬなら精々苦しみながら死ぬがいい。)


 空中に飛ばされている時に、これからしたかった事や望みができない事を悔やみ、そして最後の最期に恨みのこもった願いを思う。


 長い時間飛んでいるかの様に感じるがそれも、もう終わり地面に着く、そしてHPが0になった。


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