ステータス
暗い洞窟の中、一匹のスライムが地面を跳ねながら移動していた。
(何とか動ける様になったな。最初は移動するのに苦労したな。まぁ今はそんな事よりも、)
ピチョン……ピチョン……
洞窟の天井から水が一滴ずつ同じリズムで落ちている。
一滴では地面に吸い込まれ、染み込むだけだが長年同じ場所に落ち続けていて、下には立派な水溜まりが出来ていた。
彼はそこに近づいて、目線を下ろす。
水溜まりには水色の丸まった物体が映っていた。
(これが、今の俺なのか……。本当にスライムに転生したんだな。……はぁー、受け入れるしか無いよなぁ。それに前世の人間だった頃の名前を覚えていないんだよな。まぁ覚えていても役に立つ訳でも無いから良いけど。……今を受け入れてこの人生……と言うかスライム生で前世を忘れるくらい楽しむか!)
地球と言う星の日本に生まれ育った事は覚えているが未だに自分の名前が思い出せずにいた。しかし現状を認め前向きに生きようと決意する。
まずは今、自分が何を出来るのかを確認しようと思考する。
(……そういえば、ラノベやアニメはこんな時自分のステータスを表示させるよな。もしかしたら俺もできるのか?……いや、でも何も出なかったらちょっと恥ずかしいよな。)
何も出なかった時の滑稽な姿を想像してしまい、躊躇うが何もやらないよりマシだと思いやる気を起こす。
(……よし!いくぞ!ステータス!)
恥ずかしさを紛らわすために大きく声を出す様に心の中で叫んだ。
すると目の前に半透明の板、ステータスプレートが表示された。
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名前:なし
レベル:1
種族:スライム
HP:25/25
MP:25/25
攻撃:5
防御:5
俊敏:5
知力:100
種族スキル:『魔力生命体』
スキル:『魔力感知』『酸魔法Lv1』『水魔法Lv1』『再生Lv1』
ユニークスキル:『進化の可能性』
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(うぉ!急に出て来てびっくりした!ていうかステータスが出て良かったわ。これで出なかったら恥ずかしくて水色から赤色のスライムになる所だった)
ステータスを見ると名前、レベル、種族、能力値、スキルが書かれてある。
(俺は名前が無いのか。そして種族はまんまスライムと。レベルはもちろん1。HPは体力でMPは魔力の事だよな。多いのか少ないのかよく分からんな。攻撃と防御は5で多分だけどすごく弱いんだろうな。俊敏は5でスライムなら当然の数字だな。そして問題の知力は100、これは俺が人間の記憶を持っているからだろう。)
その予想は合っていて、本来のスライムなら知能は高くなく、俊敏と同じく5だった。
しかしスライムに人間が転生して知力だけが高くなりバランスの悪いステータスになってしまったのである。
(そして何よりスキルだ!これは異世界物なら欠かせないヤツだな。って言うか、やっぱり魔力や魔法と言った物がこの世界にはあるんだな!)
ステータスや魔力と言う地球には無かった物がこの世界には確かにあるという事実にワクワクし、同時に歓喜する。
地球ではラノベやマンガ、アニメ、映画などで数多くの作品が異世界などを題材にしているがそれはフィクションであり物語の一つでしか無かった。
それが今、この瞬間から架空のものではなく現実の物となり、操る事が出来る。それを喜ばずにはいられなかった。
(最初は困惑したけど、転生した事には感謝しよう。このまま異世界ライフを満喫するのもありだな。レベルを上げてスキルなんかも沢山ゲットしたいな。)
そこには最初の頃の困惑や混乱などのマイナスな感情は無く、物語に出て来る主人公の気分でいた。
(というかチートの代名詞の『鑑定』やそれ系統のスキルはないのか?もう少し詳しく知りたいんだがな。いや、意識を向けたらできるのか?)
そう思い、スキルの欄に意識を傾ける。
するとステータスプレートの上に新たなプレートが現れ、そこにはスキルの詳細が書かれていた。
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スキル:
『魔力感知』
魔力を感知することが出来る。目の無い生物は空間内の魔力を感知して目が見えるようになる。
『酸魔法Lv1』
魔力で酸を生成して発射する。レベルによって距離や威力が変わる。
使用可能魔法:アシッドショット 魔力消費5
『水魔法Lv1』
魔力を水属性に変換して使用する。レベルが上がると使える魔法が増える。
使用可能魔法:ウォーターボール 魔力消費5
『再生Lv1』
体の50%でも残った状態になっても魔力があれば元通りになる。 魔力消費1000
種族スキル:
『魔力生命体』
HPが0になってもMPがあれば死なない。また、MPが0になってもHPがあれば魔法を使える。体が魔力で出来た生物が取得できる。
ユニークスキル:
『進化の可能性』
進化する時に選択肢の幅が広がる。レベルの上限が解放され進化が止まることが無くなる。
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(おぉー、思うだけで出るなんて便利だな。異世界というよりゲームの世界だな。今更だが目の前にある物はどういう仕組みなんだろう?)
ゲームならそういうシステムだから当たり前と思うが、ここは異なる世界とは言え実在する、それなのにステータスプレートやスキルの詳細を見れるプレートが現れるのは地球人の彼にとって不思議な事だった。
しかし、いくら考えた所で自分の頭脳では答えが分かるはずも無いと思い、この事は一旦頭の隅に追いやる事にした。
答えの出ない事よりスキルの効果を理解する事が先だと判断したのだ。
上から順に種族スキル、普通のスキル、そしてユニークスキルを見ていく。
スキルとは自分が今出来る特殊な技能の事で自分から発動するアクティブスキルと常に発動しているパッシブスキルの二つに分類する事が出来る。
『魔力感知』はパッシブスキルの方で生まれた時から発動している。このスキルは目の無いスライムにとって必須なスキルだろう。
逆に『酸魔法』や『水魔法』、『再生』はアクティブスキルで自分の意思や発言によって発動されていて、攻撃用や防御用などのスキルや魔法は基本的にスキル名を言わなければ発動しない。
そして種族スキルはその者の種族や特徴の似た種族だけが扱うことのできる物で『魔力生命体』はスライムの他に妖精や精霊などの実体がない生物が習得する事ができる。
このスキルのメリットはHPが無くなってもMPさえ残っていれば死なない事だが、魔法やMPを使う強力なスキルを使い過ぎるとHPを使ってしまうため自爆する可能性がある。しかしHPやMPをしっかり管理していれば有能なスキルと言える。
最後のユニークスキルはスキルの中でも特殊で世界に数えるくらいしか無く、一人一個しか習得する事ができない貴重で、それだけ強力なスキルだ。
『進化の可能性』は攻撃用や防御用のスキルでは無いため戦闘の時には全く使えないが、レベルの上限が無くなるので
、今後死ななければ世界最強になれるユニークスキルの中でも上位のスキルとなっている。
(ふむふむ、とりあえずステータスは確認できたけど……俺って結構強いんじゃね?スライムってこんなにヤバいスキルを持った奴ばっかなのか?)
そう思うのも周りに比較する対象がいないため仕方がないが、普通のスライム、もしくは生まれたばかりのモンスターはこれほどの強いスキルを持っている訳ではない、通常一、二つ位で三つあれば良い方なのだが彼は六つ持っていてユニークスキルまである。普通ではあり得ない事だが、彼は普通の存在では無かった。
異世界からの転生者は神から恩恵を受ける。
それは人になろうがモンスターになろうが関係無い。
彼の場合、スキル『水魔法』、『再生』、そしてユニークスキルの『進化の可能性』を恩恵として貰えた。
これはラノベなどによく出てくるチートを神から貰ったと言っても過言ではない。
(まぁ、他のモンスター達はどんな感じか知らんが、取り敢えず俺は強いって事だよな。やっべぇー!めっちゃワクワクしてきた!早く俺TUEEしてぇぇ。)
彼はまだ、一度も使って無いが脳内で魔法やスキルを使い敵を倒し無双している自分の姿を妄想する。
地球にいた頃も存在しない魔法や超能力を使って活躍する、そんな想像や妄想を常日頃していたが、どれだけ願ってもそれは叶わない夢でしか無い。しかもそんな夢を語ったら、そろそろ厨二病を卒業して現実を見ろと言われる。
それでも一時期は魔法や錬金術なんかを本気で探せばあると信じて怪しい本の書いてある通りに試したりしていた。
それぐらい彼は魔法が存在し、使える事を望んでいた。
そして今はファンタジーの中にいて魔法やスキルを自由に使える。それは夢が叶ったという事だ。
今はスライムの姿だが、もし顔があったら嬉しさのあまりニヤニヤしていて気持ち悪い顔になっていただろう。
(……さて……いつまでもこうしてる訳にはいかないな。まず、これからやるべき事はスキルの実践だな。さっきまで浮かれてたがもしかすると使えないなんて事があるかもしれない。それにスキルってどう使うんだ?スキル名を言えば良いのか?……よし!試しだ!『酸魔法』!)
スカッ。
スキル名を発したが何も起こらなかった。
あれっ?と思いもう一度やったり、言い方を変えてみても発動する様子がない。
おかしい、と思いながらも原因が何なのかと考える。
すると彼はさっき見たスキルの詳細が書いてあるプレートの『酸魔法』の欄に使用可能魔法と書かれた文を思い出した。この『酸魔法』はあくまでスキル名で魔法の名前では無いのだ。
発動させる方法が分かり、すぐ行動に移す。
(今度こそ出てくれよ!『アシッドショット』!)
すると目の前に緑色に濁った液体が何処からか発生し球の形に集まる。その瞬間、前方に発射され地面に落ちていった。
地面は少しだけ溶けているがこれが動物にでもかかったら一撃で死ぬだろう。
(おぉー、これが『アシッドショット』か。大体1メートルくらい飛んだな。この調子で次の水魔法もやるか。『ウォーターボール』!)
アシッドショットと同じように空気中から水が生成される。一か所に集まり球の形をするが今度はアシッドショットよりもひと回り大きい。これも生成した瞬間に勢いよく発射され3メートルくらい飛んでいった。
『ウォーターボール』はアシッドショットの様に溶かして攻撃する事は出来ず、精々軽い奴を吹き飛ばすだけだろう。
しかし『水魔法』のレベルが上がれば『ウォーターボール』より上位の魔法が使えるようになり敵を切り倒したり、特殊な雨を降らし攻撃する事が出来る様になる。
今はまだ弱いままだがそれでも魔法が打てて喜んでいた。
ステータスを確認し、スキルも試す事ができた。
次にやる事はレベル上げ、つまり戦闘し、経験値を獲得する事だ。
しかし彼は前世を含めて喧嘩すらした事が無い。
そんな奴が、こちらに向けて殺そうと攻撃してくる者をまともに相手出来るはずが無い。
そのことを彼は十分分かっており、敵を倒す事が出来るのか、と不安になる。
ステータスを確認する前までは自分は何が出来るのか知らないので敵と遭遇した場合、ちゃんと倒せるのかと疑問に思いそして相手が殺そうと向かってきたら恐怖で何も出来ないだろう。
しかし、今はスキルの存在を知り、遠距離から倒せる攻撃が出せると確認した。
さっき試したスキルの威力を思い出し少しだけ勇気を出す。
気持ちを切り替えた所で早速行動しようと洞窟内に自分でも倒せる手頃な相手がいないか探索する。
(ラノベやアニメなんかだと主人公はここで強敵と戦い、チートで圧勝しレベルアップで強くなるんだろうなぁ。だけど俺はスライム。無茶なことをしたらそのまま死んでしまうだろう。なら、少しづつでも良いから一歩一歩強くなって行こう。)
その事を目標に彼は歩みを進めた。




