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99 まだ見ぬ先

翌日、早速イザベラはジーンを宿屋に呼びつけた。

彼の家に行っても良かったのだが、如何せん治安が悪いのでイザベラ一人で行くには仲間たちから難色を示されたことに加え、兄弟たちがうるさくて修行にならないのではないかという懸念も重なったため、ジーンがイザベラの元に通うこととなったのである。

ジーンは嫌がるかとも思ったのだが、案外素直に首肯したことは驚いた。


ジーンが宿屋を訪ねてきた頃には、すでにリアムたちは街へと出かけており、イザベラ一人で迎えることとなった。

それを知ったジーンがなぜか顔を赤くして躊躇うような仕草を見せたのだが、理由は定かではない。リアムのことを怖がっていたようだから、安心したのだろうか?とイザベラは内心首を傾げる。


そして時間がないことを伝え、早速魔法薬作りに取り掛かることにした。

イザベラの予想通り、ジーンは手先が器用で物覚えがいい。

参考のために本を貸していたのだが、どうやらきちんと予習もしてきたようだ。

こんなに才能ある少年が窃盗で生活を支えていかなければならないなんて…ともどかしい気持ちにもなったが、これから先そういう境遇に置かれた子たちを変えていけばいいのだと思い直す。


(もし魔王を倒すことができたら…)


ふとイザベラの脳裏にそんなことがよぎった。

今まで目標は魔王を攻略することであった。だが、その先は?

その先一体自分はどうするのか。

元の世界に帰るもよし、この世界に留まるもよし。

留まるとしたら、誰と何をするのか。

ありがたいことに何人かにあれをやろうこれをやろうと声をかけてはもらっている。

彼らのうちの誰かの手をとって、未来を歩んでいくことだって出来るのだ。

今まで出会ってきた彼らには皆立派な夢や目標があり、それを叶えるために頑張るのだと目を輝かせていた。


イザベラの目標は魔王を攻略すること、だが…その先の目標がないまま、彼らの夢を共に叶えるなんて願ってもいいのだろうか。

自分の夢でなく、誰かの夢に乗っかるなんて、甘えているだろうか。

きっと彼らは皆イザベラが共にやりたいといえば二つ返事で頷いてくれるだろう。

だがそれは、誠実な彼らに対して果たして胸を張って隣で立って共に歩めるような道なのだろうか。


イザベラの心を今まで持ち得なかった悩みがぐるぐると巡った。

もちろん元の世界に戻るという選択肢だって忘れてはいない。

元の世界はこの世界と比べて刺激がなく、毎日同じようなことの繰り返しのような面白みのない世界であったが、命の心配はなく、平穏で穏やかな日々を過ごすことはできた。

特筆すべき不満もない。それになんといってもゲームがある。

溢れんばかりの娯楽があることは、それだけでも幸せだといえる。


(リアム…や、シャーロットは魔王を攻略したら、どうするのかしら…)


なぜかあの二人のことを考えると、ざわりと胸が騒いだ。

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