98 今後の予定
ジーンの家に戻ると、子供たちが泣きながら駆け寄ってきた。
どうやら自分達が狙われていたことには気が付かなかったらしい。ほっと安堵する。
皆でノアを待ちながら、早速イザベラは考えを口にする。
「あのね、ジーン。あなたってとっても手先が器用でしょう?だからね、教えたいことがあるのよ」
「僕に出来ることなんて盗みくらいしかないよ…」
「まあいいから聞いて。私ね、少し前に貿易都市にいたんだけど、そこで荒稼ぎしてきたのよ」
「なに?急に…自慢話?」
「ふふ、何を売ったと思う?」
「そんなの分からないよ…」
「なんと!紙でできた魔法薬です!」
「……は?そんなの聞いたことないんだけど」
「でしょ?それができたら売れると思わない?」
「……思う」
イザベラの言葉に、ジーンが渋々と同意した。商売のセンスが皆無というわけではなさそうだ。これなら本当にいけるかもしれない。
その後、ノアがやってきたことでその日は解散となった。
そして翌日から早速魔法薬をジーンに教えることになったのだが、リアムたちは案の定難色を示した。
宿屋に戻ってから、今後の予定を話すべく集まった中で、早速リアムが口を開く。
「俺は反対だ」
「何の話?」
「分かっているだろう。ジーンに魔法薬を教えるという話に決まっている。時間を無駄に消費するつもりか?それなくてもネックレスを取り戻すのに大分時間を消費した」
「……シャーロットはどう思う?」
「そうですね…、まああまり良くは思っていません。お金にもならないですし」
「へえ…盗人君に魔法薬の作り方を伝授することになったの?本当に君って面白いね」
一人楽しそうなノアは無視して、イザベラは言葉を続ける。
「じゃあこうしましょう。私たち次の目的地を決められたわけじゃないわよね?だから手分けして情報収集すればいいんじゃないかしら。私はその間にジーンに作り方を叩き込んでいくから」
「なぜそんなことする義理がある?俺たちは寧ろ迷惑を掛けられたんだ」
「分かってるわよ。これが偽善だってことくらい。…でも、せっかく関わりを持った子だもの。少しくらい力になってあげたいじゃない」
イザベラが目を伏せるとリアムが押し黙った。彼は何だかんだ言って御涙頂戴に弱いのだ。
「私は構いませんよ。少しくらい休暇を取るくらいの気持ちでゆっくり過ごしてみるのも悪くないかと」
「だったらオレがこの街を案内しよう」
「……おい、勝手に決めるな」
「リアムは嫌なの?」
ずるいとは思ったが、ちらりと上目遣いに問いかけてみた。案の定ぐっとリアムが口籠る。そして何か口の中でごにょごにょと言ったかと思うと、眉根を引き寄せて嘆息した。
「……わかった。お前に従う」
「ありがとう。決まりね」
さすがにイザベラもここで長居をするつもりはなかった。
そこで一週間という期限を決めて、イザベラはジーンに魔法薬作りを教えることに、リアムとシャーロットはノアに街案内を受けながら旅の準備と次の目的地を探す流れになった。
「よーし、明日から頑張っちゃうわよ」
何だか胸が躍る気持ちだ。自分が役に立てると実感することは自己肯定感が上がるのである。




