97 帰り道
固まってしまったのはイザベラだけでなく、中に居た者たち全員であった。
いち早く動きを再開したのはボスで、悪役のお約束のように
「こいつの家族がどうなってもいいのか!」と喚いた。
しかし、最後に入ってきたノアが悪役顔負けの表情で
「そんなの片付けてからに来たに決まってるでしょ?」と言い放った。
ノアの召喚出来る距離に驚いたが、Aランクの冒険者なのだ。そのくらいできてもおかしくないのかもしれない。
だがイザベラ自身はそちらも警戒せねばなど微塵も思っていなかった。
そこに彼との経験値の差を感じて落ち込んでしまう。
後は早いもので、気付いた時にはリアムが全員を倒していた。
本当に瞬きの間である。彼も異次元の強さだ。
そしてリアムの手に渡ったネックレスをイザベラの元へと持ってきて、彼自らがイザベラの首へとかけてくれた。
「やっとお前の元に戻ってきたな」
「……ええ、ありがとう」
じんわりと胸に温かいものが広がり、取り戻してくれた皆へ笑みを向けた。
そして改めて倒れた男たちを見渡して、現状をどう片付けるべきかと肩を竦める。
「ええと…彼らは…」
「後始末はオレに任せて。報告ももう済んでるし、じきに応援が来ると思う。君たちは先にジーンの家に戻っててよ」
心配でしょ?とノアが続け、暗い顔をしていたジーンが頷いたため、ノアの言葉に甘えてその場を立ち去ることにした。
ジーンの家に向かう途中、イザベラの隣にぴたりとジーンが寄り添う。
何やら物言いたげな目線を感じていたが、彼がついに口を開いた。
「あの、さ…。」
「どうかした?」
「さっきのこと…だけど、分かってたの?」
「何が?」
「……助けが来るって」
「いいえ?」
正直に答えると、ジーンがあんぐりと口を開ける。
「じゃあ本気で犠牲になろうと思ってたの?アンタのネックレスを奪った男の家族を守るために?」
「まあ、そうなるわね…」
改めて言われると、なんだか違うような気もするが事実だけを並べるならそうである。
「信じられない…。赤の他人に対してそこまでするなんて…」
「まあ、理解してもらおうとは思ってないけど」
ジーンの素直な反応に思わず苦笑してしまう。
「それより、あなたこれから先どうするの?このままこの街に留まるわけにはいかないでしょ?」
「それよりって…!……まあ、そうだね。どこかに移住するつもり」
「結局報酬はもらえたの?」
「もらえるわけないじゃん」
今度はイザベラが苦笑されてしまった。
「そう…。あのね、ちょっと私に考えがあるんだけど」
「は?これ以上僕たちにおせっかいやくつもり?」
「そうよ!こうなったらとことん付き合ってあげる」
ジーンから呆れたように言われ、さらにリアムとシャーロットからも胡乱げな視線を送られたが、ここで考えを改めるほど意志の弱いイザベラではない。
イザベラは胸を張って、どこか誇らしげに言い放った。




