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96 アジトでの戦闘 後

「どうしたお嬢ちゃん。こんな小僧にまさか惚れたってんじゃねえだろうな?」

「おい下衆なこと言ってんじゃねーよ、そんなわけないだろ」

「……私を殺せって言ったのはそっちの方じゃない」


そんなに変なことだろうか?と考えたが、確かに変なことだった。明らかに異常なのはイザベラの方だ。

(だって私殺されてもそこでゲームオーバーじゃないもの)

なんて、言えるはずもないのだが。そこを伝えずに理解してもらおうというのは案外難易度が高い。

いっそのこと言ってしまうか?とはいえ正直に言ったところで信用してもらえるとも思いにくい。

逆に自分だったら絶対に信用しない。

ジーンだって多分疑い深い性格だ。それにきっとこの世界の自分は本当に死んでしまうのだろう、予想ではあるが。

だとするとイザベラ自身は死んでいないと思っていても、この世界線だと死んだことになるのでは?と色々考えてしまう。


その間にも時間は刻一刻と迫っていた。

ボスが痺れを切らすのも時間の問題である。これ以上の時間稼ぎは難しいかもしれない。


「おい!その女はお前になら殺されてもいいらしいぜ!お望み通りさっさと殺してやれよ!」


ボスに煽られ、ジーンがよろよろとイザベラの前に進み出た。手にはナイフが光っている。


(私あれに刺されるの?痛そう…ちょっと嫌だな)


セーブポイントまで戻されるとはいえ実際訪れる痛みは本物だろう。

刺される痛みを想像してイザベラの眉根が引き寄せられる。

しかもジーンの手はイザベラから見ても、ぶるぶると震えていた。まともに刺せるとは思えない。

無駄に苦しみながら死ぬのも嫌だなあと改めて思う。


「僕が…イザベラを、殺す…?」

「……痛くしないでね?」

「っ、ふざけてる場合じゃないでしょ…!」

「おいさっさとしろ。家族がどうなってもいいのか?」

「……っ、だまれ…!」


これではジーンが気の毒である。

いっそのこと殺されたフリでもして自分から刺さりに行ってやろうか?とも思ったが、イザベラが妙な行動をとることでジーンの家族に被害が加えられることにでもなったら、目も当てられない。


怯えた瞳をジーンに向けられ、イザベラはふっと微笑んだ。

なんと心優しい少年なんだろう。

家族のことはもちろん、イザベラのことを殺すのにも躊躇いを見せるなんて。

そんな一目を見られたのはよかったのかもしれない。

大丈夫。二周目はもう少し上手くやれるはずだ。こんな風にジーンを苦しませるような真似は一度で十分。


イザベラの目を見て、ジーンの表情がすっと陰ったものへと変わった。

覚悟を決めたのだろう。心を殺したのかもしれない。

ゆらりとジーンがイザベラへ近づく。


(もう一度だけ、リアムとシャーロットの顔が見たかったなあ…)


イザベラがゆっくりと目を伏せた、そのとき、勢いよく扉の開く音がしたかと思うと、リアムとシャーロット、それにノアが部屋へと入ってきた。


「おい…!なにやってる…!」


リアムに叫び声に、イザベラはぱちりと瞳を開く。


(……妄想?じゃない…わよね?)

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