95 アジトでの戦闘 中
イザベラの戦闘能力はかなり上がったと自負していた。
このような男たちに負けることはないだろう。
そう思いコントロールしながら魔法を放つ。イザベラの前にいるのは一人だけだ。
すぐに倒せるだろうと再び水魔法を放った。
水の塊が正面にいた男に命中する。男はイザベラに近づくことなく倒れてしまった。
あまりにも呆気ない。そこまで強くないのだろうか。
イザベラが困惑顔でジーンの助けに入ろうと顔を向けると、ジーンも既に一人倒していた。
今向き合っているのがおそらくボスだろう。
イザベラはそれを確認し、ネックレスを持った男を倒そうと足を踏み出した。
そのとき、ジーンの叫び声がイザベラの耳に届いた。
イザベラははっとして動きを止める。一体なにが?と振り向くと彼らは向き合って何か話しているようだった。
「なんだ思いつきもしなかったのか?」
「黙れ!姑息な手ばっか使いやがって…!」
「いいのか?家族がどうなっても…」
男のセリフにイザベラはごくりと唾を飲む。やりとりから察するにどうやら男は仲間たちをジーンの家に向かわせているらしい。
そしてジーンの弟たちに危害を加えてもいいのかと脅しているのだろう。
そんなことを言われ、家族思いのジーンがどんな反応をするかなど火を見るよりも明らかであった。
動揺したイザベラが足を止めて二人を見ていることにボスが気付いたのか、視線をちらりとこちらへ向けて酷薄に笑う。
「一つだけ家族を助ける方法を教えてやろう」
「なんだ?」
「その女を殺せ、お前の手でな」
「……!」
ジーンの目が最大まで見開かれた。一方イザベラはなんと悪趣味な男なのだと思わず舌打ちしそうになる。
(私がここで殺されるのは…嫌だけど、構わない。どこまでやり直すことになるのかは分からないけどね…。でもジーンにそれが出来るかというと…難しいところだわ)
ジーンは本来心優しい青年なのだ。イザベラには一度盗みを働いたことを今でも後悔しているような素振りを見せ、現にここまで着いてきてくれた。
そんな彼にイザベラを殺すことなど出来るのだろうか。
イザベラ自身は殺されたら痛いだろうし嫌ではあるが、本当に終わりというわけではない。
セーブポイントからやり直すことが出来るのだ。
この手が悪手だったというのであれば、再度別の方法を使ってやり直すのもやぶさかではない。
けどまさかストレートに私は死んでも生き返るから大丈夫などとは言えない。
(一体どうやって伝えようかしら…)
じっと固まった二人を見て、ボスはどう思ったのかにやにやと楽しげに笑みを浮かべている。
「どうした?家族が大切じゃなかったのか?家族のために盗みをやめたいと言っていたのはお前じゃないか」
「……っ…」
「いいわよ、ジーン私を殺して」
「……っはあ!?」
これ以上ジーンを苦しめたくなくて、イザベラは毅然と言い切ることにした。
あまりにも潔く言い切ったからだろうか、ジーンだけでなくボスもぎょっとした表情を浮かべる。
「何を言ってるんだ?この女、頭がおかしいのか?それともいつの間にそんな仲良くなったんだ?」
「……イザベラ、冗談にしては笑えないよ」
「私は本気よ」
やはりジーンはイザベラを殺す気はないようだ。
これは参ったなとイザベラは苦笑する。まさか自分を殺すように説得する日が来るとは思いもしなかった。




