93 盗賊たちの隠れ家
ジーンに連れられ花の都市を歩く。
花の都市は観光地ということもあり、大通りは綺麗に整備されていて人通りも多いのだが、一本道を外れると途端に人が減り閑散とすらしていた。
観光客の数は多いが、住人の数はそれほどまで多くないのかもしれない。
あまり住みやすい街…とはいえなさそうだ。スラム街まであるということは、そういった規制に緩いのかもしれない。
(ジーンはずっとこの街で暮らすつもりなのかしら…)
いつぞやイザベラからネックレスを盗んだように、盗みを働いて生活していく。こんなにも不安定で危険な仕事をこれからも続けていくつもりなのだろうか。
今イザベラがジーンに何か施しを与えることはできる。だがそれは長い目で見てジーンの救いにはならないだろう。
(もっと継続的に…ジーンが自立出来るようなフォローができればいいんだけど…)
歩きながらぼんやりと思考を漂わせていると、いつの間にか一向は森の中へと足を踏み入れていた。
聖なる森とはまた異なる森だ。
どちらかといえば人の気配が色濃くあり、開発まで至ってはいないもののモンスターが多く生息しているような雰囲気ではない。
物珍しげにきょろりと周囲を見渡していると、先頭を歩いていたジーンが足を止めた。
「着いたよ」
彼の言葉に前方を見ると、確かにこれぞアジトと言わんばかりの家が鎮座している。
当然ながら見張りもいて、今は二人だろうか。もしかすると裏手にもいるかもしれない。
現在草むらから覗いているためこちらのことはバレていないが、今以上に接近すれば見張りに気づかれるのも時間の問題である。
とてもじゃないが彼らに気づかれないようアジトに入ることは叶わないだろう。
イザベラと同じことを皆も考えているのか、口を開く者はいなかった。
しばらくして、ノアがようやく口を開く。
「見張りを引きつけるのはオレがやるよ」
「え?」
「潜入は誰が行く?」
「僕が」
真っ先に名乗り出たのはジーンだった。
「私も行くわ!」
慌ててイザベラも告げる。元々はイザベラの頼みでもある。人任せというわけにはいくまい。
「俺も…」
「待て。あまり大人数で行くのはオススメしない。ジーンとイザベラの二人に行ってもらおう」
リアムも続けて名乗り出たところで、ノアに止められた。
確かにアジトはあまり広くはない。リアムとシャーロットには外で待機してもらう方がいいだろう。
リアムは納得いかないという顔をしていたが、イザベラからも改めて頼むと渋々頷いてくれた。
そしてノアと共に見張りを引きつける役をしてもらうこととなった。
シャーロットは怪我人が出た際のサポート役に徹してもらう。
作戦などあったものではないが、各自やるべきことは決まった。
あとは実行のみだ。




