92 ジーンの理由
「なんだか冒険みたい!ワクワクするなー。お姉さんたち、冒険者なんでしょ?職業はなに?」
敵のアジトまでジーンに案内してもらうこととなったが、ジーンは目をキラキラと輝かせ実に楽しそうである。なんだかまるで楽しい冒険に出たかのようだ。
そんなジーンに不機嫌さを増しているのはリアムである。
「おい、遠足じゃないんだ。あまりはしゃぐんじゃない」
「えー?いいじゃん、ねー?」
「あはは…」
(なんだか思っていた感じと違うなあ…)
スラム街で逞しく生きてきた子なのだ、もっと擦れた子だとばかり思っていたのだが…予想はいい方に裏切られたというべきか、案外少年らしさが強く残っていて、どこか安心する。
「……あの、どうして私たちに協力しようと思ったんですか?あの人たちに会ってもあなたに得はないですよね?責任を感じてだけの行為とはとてもではないですが思えません」
突然きっぱり告げたシャーロットにイザベラはぎょっとする。
なにもここでそんなストレートに尋ねなくてもいいのではないか、一瞬場の空気が凍ったが、シャーロットの意見は尤もでもある。まさに皆が聞きたいことでもあった。
自然皆の視線がジーンに集まり、ジーンも逃げきれないと思ったのか頬をかりと指先で掻く。
「僕の質問には答えてくれないのに…僕には答えさせようなんて、なかなか強引だねピンクのお姉さん。まあでもいいよ、教えてあげる。うーん、お姉さん僕の弟たちにご飯を分けてくれたんでしょ?僕がネックレスを盗んだ犯人だって知ってたのに…あいつらにその話を聞いてさ、世の中悪い人ばかりじゃないんだなーって思ったんだ。今までそんなこと一度も思ったことなかったんだけどね。人を信じてみたいなって気持ちになった。人を信じるためにはまず自分が信じてもらうことが必要だって母さんが昔言ってくれたからさ、今はそれを実行してる最中。こんなところかな?」
ジーンの答えは予想よりもはるかに達観していた。まだ10代であろう少年にしてはあまりにも無邪気さから遠い。彼の育ってきた環境を思うと、イザベラは顔を歪ませた。
「そうですか。納得しました。それではイザベラさんのネックレスを一緒に取り返しましょう」
シャーロットは顔に見合わずさっぱりとした性格である。直球で投げた質問の答えに納得したようで、読めぬ表情のまま頷くと続けて問いを重ねることもなくさっさと会話を終わらせてしまった。
ジーンも同情を得たいわけではなかったようで、会話を終わりにしたことに不満を抱いている様子もなく、先程よりも少し晴れやかな表情でイザベラに笑みを向けてきた。
その無邪気さを感じさせられる笑みに、イザベラの口元も綻んだ。
一番は自分のためではあるが、彼のためにもネックレスを無事取り返したい。




