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91 盗人ジーン

「そう、ね…」

「待って…!僕も連れてって…!」


イザベラがリアムの言葉に頷こうとしたところで、別の声が割り込んできた。

きょとんと目を瞬いて声のした方向を見ると、シャーロットに連れられた盗人の少年の姿があった。

 

「お姉さんたち、僕のこと助けてくれたんでしょう?ありがとう」

「いえ…もう大丈夫なの?」


イザベラが少年ではなくシャーロットへ顔を向けると、シャーロットが眉を顰めた。あまり大丈夫ではなさそうだ。


「大丈夫だよ!それより、お姉さんネックレスの人だよね?僕…酷いことをして本当にごめんなさい」

「……ジーン」


あまりにも殊勝な態度に戸惑う。盗まれた際はわりと強かなように感じたのだが…こちらが少年の本性なのだろうか。あまり信用はできないが、これ見よがしに疑うわけにもいかないだろう。

どういう態度を取るべきか悩んでいると、リアムが前に進み出た。


「謝って済む問題だと思っているのか?」

「ちょっと!リアム!」

「……思ってません。だから、僕の手で取り戻そうと思って…」

「一度やられたのに?」

「……っ、それは…油断してたから…」


リアムがさらに詰め寄ろうとしたところで、子供たちが現れ取り囲まれてしまった。


「やめて…!兄ちゃんは悪くないの!」

「おれたちを守ろうとしただけなんだ!」

「許してあげて…!」


子供たちが口々に少年を庇い、さすがのリアムも困惑した様子で佇んでしまう。


「っはは、これじゃあどちらが悪者か分からないね」


態度を決めかねていると、子供たちの後ろから楽しげな笑い声が聞こえてきたかと思えばノアが姿を現した。


「ノア…!」

「いいんじゃない?自分の行動に責任を持つなんて、いい心掛けじゃないか」


歌うように告げるノアはどこまでも楽しそうで、何を考えているのかいまいち分からない。リアムとイザベラは思わず眉根を寄せてしまう。

まさか本心からそう言っているわけではないだろう。分かりやすい建前ではあるが、逆に本音が掴めない。

油断させたところを捕らえようとでもいうのだろうか。犯人を捕まえると言っていた気がするのだが。


「お願いします!…僕、ちゃんと謝りたいから…」


少年がしゅんと項垂れながらも、ノアを味方と認識して懸命に訴えてきた。

はたしてこの少年をどこまで信用すべきか。イザベラの直感としてはあまり信用ならないというのが本音だった。全てが嘘だとも思えないが、少なくともここまでしおらしいタイプでないことだけは事実だろう。

嘘の中に本音を織り混ぜるタイプは最も厄介である。

だが、仮に少年がこちらを裏切ったとしてもこのメンバーであればどうとでも対処できるというのも事実だった。

少年は利口そうではあるが、戦闘能力自体はそこまで高くないはずだ。

ノアはもう少し少年を探りたそうにしている。であれば答えはもう決まりだった。


「分かった。いいわ、一緒に行きましょう」


リアムとシャーロットも、イザベラの答えをどこか予想していたのか、反応は薄かった。

ジーンの瞳が輝くのがイザベラの目に入った。

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