90 考察 後
「それで、分かったのか?」
「うーん…それが、なんとも言えないんだよね…」
釈然としない物言いにイザベラは首を傾げた。
「誰だか分からない人から受け取ったの?大事なコンテストの賞品を?」
「なんというか、まあ有体に言うと、国も一枚岩じゃない。全てがクリーンってわけじゃない。今回はその悪い方の力が優ったというか…」
「つまりヤバい連中から買い取ったというわけか?」
「まあ…そうだね。オレも別に国の味方ってわけじゃないけど、まあ政治は綺麗事だけじゃ済まされないからさあ」
「じゃあ、ジーンはそのヤバいグループの一員ということ?」
「まあ、トカゲの尻尾みたいなものじゃないか?本当にやばくなったら真っ先に切られるポジションだね。現に今し方切られたばかりじゃないか」
「……え」
「オレがネックレスが偽物だと国に報告した。だからそれを知った連中に彼は撃たれたんだよ。まあ、なんでジーンが偽物なんかを渡したのかは知らないけど」
ノアの考察にリアムが納得しかねる表情を浮かべる。
「……俺は違うと思う。あの偽物の出来はなかなかのものだった。いくらなんでも一盗人の出来る技じゃない。だからジーンは本物を連中に渡していた。偽物を用意したのは連中だ。そしてジーンはそれに気付き、再び盗みを働いた。それがバレたから取り返された」
「うーん、確かにそんな気もするけど…。せっかく手に入れた本物をどうして売ろうとしていたのかしら。危ない目に遭うのは確実だわ。それに偽物とバレてもジーンが間違いなく本物を渡したのなら、彼にデメリットはないんじゃない?」
「……ジーンが間違いなく本物を渡したという証拠は?」
「え?」
「ジーンは自分で自分が危うい立場だと自覚していた。そして彼は何らかの理由でコンテスト賞品が偽物であるということを知った。もしそれが偽物だとバレたとして、真っ先に疑われるのは誰だ?」
「……なるほど」
なんとなく経緯が見えてきた。実際コンテストの賞品が偽物だということは国も周知している。もしかするとヤバい連中とやらは何らかの責任に問われているかもしれない。
「……もしかして、ジーンの意志で売り捌こうとしたんじゃなくて、彼らから命令されてたんじゃない?」
「え?」
「ジーンは彼らからネックレスを盗んだんじゃなくて、預けられてた、もしくは売り捌くように命じられてたのかもしれないわ」
「なるほどね。彼らが起こしたことではなく、ジーンが単独でやったという事実を印象付けるための行為なのかもしれない」
「そう、そして彼らは盗人から本物のネックレスを取り返した。…そういう筋書きなのかもしれない」
「……実際のところはジーンが目覚めるまで確かめようがないが、一応その線を警戒しておけと連絡しておくよ」
ノアがそう告げると部屋から出ていく。リアムは今度は引き止めようとはしなかった。
残された二人はどちらからともなく視線を合わせる。
「ジーンはどうなると思う?」
「生きていることがバレたら、間違いなく死刑になるだろうな」
「そんな…」
「こいつはそもそもお前からネックレスを奪った犯人だ。犯罪者であることに違いはないだろう」
「……それはそうだけど」
イザベラの瞳が伏せられた。
本当にこれで終わりにしていいのだろうか。
「まあ、どちらにせよもうジーンに用はない。俺たちが探しているのはネックレスだ。ヤバい連中とやらから取り返しに行くぞ」




