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9 あと少しだったのに

「炎よ…!」


イザベラが杖を掲げて唱えると、あっという間に草原リスが炎に包まれ消滅した。


イザベラは初めてモンスターの討伐を行っていた。

そして予想以上に自身の火力が高いことに気付く。流石は天職といったところであろうか。練習した甲斐もあったというものだ。

ただまだ無詠唱には到達できていないし、魔法のコントロールも安定しない。

分厚い書籍から学んだ知識であるが、魔法の詠唱や杖を使用することは、慣れてくれば不要になるらしい。

おそらく魔法に必要なのは集中力だ。

詠唱や杖は、あくまでも集中力を補佐する存在なのだろう。

まあまだEランクの身であるなら、そこまで深く考えず身体に叩き込むことが先決かもしれない。


そんなことを考えながら覚えたばかりの魔法を次々にモンスターに向けて放っていく。

どうやら、魔法には相性があるようで、魔法の属性によって、与えるダメージも異なるようだ。

(モンスター弱点属性一覧の書籍とかないのかしら…)

とりあえず分かった情報を片っ端から自身のノートに書き留めておく。


「よし、討伐クエストは完了…と。おお、ちゃんとクリアに変わってる」


無事スライムと草原リスの討伐を終えるとカードを取り出し、文字を確認した。やはり何らかの形できちんとクエストの進捗を把握しているらしい。

カードを再びしまってから、最後のクエストに取り掛かることにした。


「それにしても綺麗なところだわ…」


いつの間にか日が暮れ始め、だだっ広い草原の向こうには夕日が見える。

紅に染まる草原はとても美しかった。

そしてご指名であるその白い花は、イザベラの立っている周囲一面に咲いており、花畑の中にいると甘い香りが鼻をくすぐり、目にも鼻にも幸福を与えてくれる。

イザベラはしゃがみこんで、花を摘み始めた。


「うーん…折角だから、イレーナの分も摘んでいこうかしら」


断られれば自分の部屋に飾ればいいやと、依頼よりもやや多めに花を摘む。

そして両手に花を抱え、依頼人であるエリックの居る宿屋へと向かったのであった。



温泉宿の中に入ると、カウンターに立っているエリックの姿が見え、真っ直ぐに彼の元へと向かう。

丁度彼以外の人の姿は見えなかった。


「あれ?イザベラ、いらっしゃい。その花は…」

「依頼してたでしょう?届けに来たの」

「ああ…!ありがとう…助かるよ」

「ここに飾るの?」


ちらりと視線を向けたカウンターには同じ花が既に飾られている。


「そうなんだ。毎日入れ替えてるんだけど、なかなか摘みに行くのが大変で…まさか君が持って来てくれるとは思わなかった」

「今日初めてクエストに挑戦してみたのよ。依頼主が貴方だったから、選んだの」

「そっか…嬉しいな」


イザベラの言葉に、エリックがはにかんだ笑みを浮かべる。これで告白してこないのだから信じられない。


「あまり報酬が出せないから、なかなか行ってくれる人がいなくて…一応毎日依頼を出してはいるんだけどね」


エリックが苦笑しながら花を受け取った。確かに彼の言う通り報酬はとてもしょぼい。だって温泉利用券一回分だ、もはや金銭ですらない。

しかしこれはイザベラにとってチャンスである。毎日依頼を出しているのであれば、毎日イザベラが依頼をこなせば自然とエリックとの接点が増えるではないか!


「ねえ、エリック。それなら私が毎日この依頼を受けるわ。…町を出るまでになるけれど」

「本当かい?それは助かるな。…その、君に毎日会えるのも、楽しみだ」

「私もよ。今日も会えて嬉しいわ」


まるで恋人同士の会話のようではないか。アピールチャンス!と思い、ここぞとばかりに飛び切りの笑顔を浮かべてやる。

エリックは破壊力抜群の笑顔を正面から見てしまったため赤面して、目を泳がせた。


「あの、ところでイザベラ…」

(おや?これはもしかして…)

フラグを察したイザベラの目が妖しく光る。続きを促すように首を傾げてみせた。

「どうかしたの?」

「このあと…僕と…」

「あのー、すみません。受付いいですかー?」


信じられないタイミングで邪魔が入った。イザベラは咄嗟に殺意を覚えたが、もちろん表情には出さずに声のした方へ目を向ける。

声を掛けてきたのは三人組の女性グループだった。温泉客なのだろう。仕方がない、忘れかけていたが今エリックは仕事中でカウンターに立っているのだ。まさかこのまま続けてくれるはずもあるまい。

イザベラは困ったような笑みをエリックに見せ、肩を竦めてから立ち去ることにした。エリックもぎこちなく目線で見送ってくれた。

焦る必要はない。チャンスならまだいくらでもあるのだ。


若干テンションが下がりながらも、ギルド協会に向かい、イレーナに冒険者カードと花を差し出した。

花には驚かれたが、綺麗だったからイレーナに贈りたかったと言うと、嬉しそうに微笑んで受け取ってくれた。

その笑顔が無防備で可愛くて、またプレゼントしようとイザベラは思った。


(トータルで見れば前進した…のかな?)


とにかく行動あるのみ!と決意し、イザベラは明日から新しい日課が増えたなと考えながら、家路へ向かうのであった。

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