89 考察 前
「ノア…!?」
「違う。もっと距離がある」
子供たちをその場に残るように言い残し、イザベラは外に飛び出した。
外に出ると驚いたように道の先を見ているノアが立っていた。どうやら彼に被害はなかったらしい。イザベラはほっと胸を撫で下ろした。
「見えたか?」
「いや、…でも場所なら分かる。こっちだ」
リアムとノアが短くやりとりをし、ノアが先導して走るのを慌てて皆でついていくことになった。
そう経たずして銃声のした場所につくと、そこには蹲るようにして倒れている一人の少年の姿があった。
シャーロットが慌てて駆け寄り、少年を抱き起こし治療を始める。
「シャーロット…!」
「……大丈夫。急所は外れています。命に別状はないでしょう」
「そう…」
「イザベラ、こいつがお前のネックレスを盗んだ犯人か?」
リアムに問われ、イザベラはシャーロットに抱かれた少年の顔を覗き込んだ。
そして小さく頷く。
「ええ、この子で間違いないわ」
「そうか。……じゃあこいつを撃ったのは、誰だ?」
答えられる者はその場にはいなかった。
シャーロットが止血した後、先程の家まで少年を運ぶことにした。
血塗れの少年を目にした子供たちは案の定泣き叫んでしまい、イザベラはやるせない気持ちになる。
とはいえ、銃声を耳にした際イザベラたちは子供たちと共にいたため、撃った犯人と疑われなかったことだけは救いであった。
少年の回復を待つ間、改めて看病をしているシャーロットを除き3人で情報を照らし合わせることとなった。
「さっきあいつが撃たれたとき、お前はどこにいた?」
早速リアムがノアを疑いの目で見たため、最初から雰囲気は険悪なものとなる。
「おいおい、まさかオレを疑ってるのか?いくらなんでもあの距離から撃つことは叶わないだろう」
「お前自身が撃たなくても、指示を出すことくらいはできるだろう」
「……なるほどな」
「ちょっとリアム…」
「構わないよ。オレだって疑われっぱなしってのは気分が悪い。疑いはちゃんと晴らすさ」
ノアはそこまで気にしていないようだ。リアムだってまさか本気でノアが犯人だとは思ってまい…多分。
「オレがあのとき場を離れたのは、連絡をとっていたからだ。といってもあいつを狙うためじゃない。むしろその指示を出した人物を探そうと思ってね」
「……というと?」
「コンテストの優勝賞品はイザベラから盗んだネックレスだった。あの少年にはたしてあのネックレスの価値が正確に理解できただろうか。そしてそれをコンテストの賞品にできる力はあったのだろうか。それこそ最初から偽物だと思われても仕方ないと思ったんだよ。だとすると、それを信頼しうる何者かが彼の背後にいたんじゃないかと思ったんだ。だから、コンテストの優勝賞品を決めたのは誰なんだって聞いてたんだ」
ノアの考察に、二人は頷くことしかできなかった。




