88 盗んだ理由
その後彼らから話を聞くと、やはり盗人の正体は彼らの一番上の兄だったらしい。
だが、彼らは本当の兄弟というわけではなく、捨て子同然の彼らを拾い面倒を見てくれたのが盗人であるジーンという少年だそうだ。
しかしながらジーンだって孤児の一人。スラム街に住んでいるところを見てもまともな職に就いているわけではない。
観光都市である花の都市で盗みを働き、今まで生活費を稼いできたらしい。
感心できる話ではなかったが、生きていく上では仕方のないこともでもある。
イザベラはなんとも言えない気持ちになった。
しかし盗みで生計を立てるにも限界がある。それなくともあまりにも頻繁に盗品を売り捌いていれば、顔も覚えられるし怪しまれる。捕まるリスクだってある。
それでも今まではきっと観光客の財布や金目のものを盗んだ程度だっただろうから、足がつかなかったのだろう。
だが今回は違う。なんといってもこの都市を代表するコンテストの優勝賞品であるネックレスなのだ。これが本物でも偽物でも厄介であることに違いなく、関わりを持つまいとする店主たちの気持ちは痛いほど分かる。
ジーンがそれをどこまで理解しての行動かは分からないが…
それまで黙って話を聞いていたリアムが口を開いた。
「どうしてジーンはわざわざイザベラのネックレスなんかを狙ったんだ?観光客がこれだけいるんだから、もっとリスクの少ない観光客を狙う方がよほど安全だったはずだ」
「順番が逆なんだ」
「え?」
「兄ちゃんがネックレスを手に入れたから、コンテストの優勝賞品が神秘のネックレスになったんだよ」
「え…」
「ちょっと待ってよ!私がネックレスを盗まれたのはコンテスト告知の3日前なのよ?」
「そうか、なるほど…腑に落ちる説明だ」
「……ノア?」
「コンテストは例年なら2ヶ月は前に告知されるものなんだ。それが今年は二週間…いくら記念の年でサプライズを演出したいからという理由があったとしても、無理があると思ってた。実際あまりにも急だったために、コンテストの出場者も例年より少なかった。おかしいと思ってんだ」
ノアは独り言のようにそう零してからなにか思案する表情のまま、確認したいことがあると言い残して部屋から出て行ってしまった。
「兄ちゃんはずっと盗みをやめたいと言ってた。今回の盗みはかなり大きいから、成功すれば今後盗みをはたらかなくても生きていけるって…みんなでこの街を出ようって、言ってたんだ。どうして偽物になっちゃったのかは分からないけど…」
「本物を売ろうとしてたんだ。最初から偽物を渡すつもりだったんじゃないか?」
「兄ちゃんはそんな卑怯なことしない…!」
「ちょっとリアム…!」
リアムと子供たちが揉めそうになっていたところをイザベラが止めに入ろうとしたとき、何処かからか銃声が響いた。




