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87 彼らの事情

4人いた子供たちが食べ物を分け合いなんとか空腹を一時的に和らげることができたからか、その場の空気が若干柔らかくなった頃、改めてイザベラは声をかけてみることにした。


「あの、突然ごめんなさい。驚かせちゃったわよね。私たちはあなたたちに危害を加えたいわけじゃないの。ただ私の大事なものを取り戻したかっただけなのよ」

「……アンタの大事なもの?」

「そう。ええと…色は銀色で、真ん中に青の宝石がついているネックレスなんだけど…」


具体的な特徴を話すと、子供たちがはっとした表情を浮かべ困惑したように視線を通わせ始めた。

やはりネックレスはここにあったらしい。


「教えてくれない?」

「見つけてどうするつもりだ。警察に突き出すのか」

「え?…ええと、そこまでは考えてなかったわ」


イザベラが素直に答えると、子供たちはきょとんと目を丸くした。

イザベラ自身も思わず困惑する。確かに彼らの言う通りだ。見つけて取り戻したいという気持ちはあったが、それ以外の具体的には盗人たちをどうするかにおいては何も考えていなかった。


「まあ、そうね…。ネックレスさえ返してもらえるなら、懲らしめようとかそんなことは考えてないわ」

「なんで…?だってアンタの大事なもんを盗まれたんだろ?」

「それはそうだけど。私の大事なものが戻ってくるのと、盗んだ人が酷い目に遭うのはイコールではないでしょ?」


我ながら偽善者すぎる発言か?とも思ったが、子供たちどころか仲間たちにすら同じように思われたらしく、全員から胡乱げな眼差しを向けられ、さすがに口籠った。


「な、なに…?私変なこと言った?」

「変っていうか…うん、変だな」

「そんなはっきり言わなくても…」

「まあ、イザベラさんらしいお考えですね」

「シャーロットまで!?」


ともすると和やかな雰囲気にすらなりかけていたところで、リアムが呆れたように口を開く。


「で?ネックレスはどこにあるんだ?盗人は痛めつけないでやるから、さっさと場所を教えてくれ」


あまりにも率直な物言いに子供たちが再び口を閉ざしてしまう。しかしながら先程とは異なり幾分か敵意は薄れ、それぞれの意向を探るように視線を交わらせていた。


「……あのね、兄ちゃんは本当はいい人なの」


迷った末口を開いたのは最も小さな少女だった。兄ちゃんということは、あの盗人は彼女たちの兄なのだろうか。


「お姉ちゃんの大事なもの、盗んでごめんなさい…。でも、それで最後だって。もう盗みはしないって言ってたから…許してあげて」

「私のネックレスを盗んだのには訳があったってこと?」

「うん…」


どうやら話をじっくり聞いた方が良さそうだ。そう思ったイザベラは少女たちと目線を合わせるように膝に手を当てて腰を屈め、笑みを向けた。


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