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86 盗人と子供たち

しばらく呆けたように見つめあっていたものの、最も最年長であろう少年が慌てて他の子供たちを庇うように前に出てきた。

年齢は10歳前後くらいだろうか。やはりどう考えても幼い。


「な、なんだお前ら!」

「イザベラ。こいつが盗人か?」

「違うわ」


リアムは小さな子供を前にしても特に動揺した様子はなく、淡々とイザベラに問いを向ける。イザベラは慌てて首を横に振った。いくらなんでもこの子供たちが盗人とは思えない…のだが。何かの勘違いだろうか。


「どういうことだ?」


イザベラの言葉に眉を寄せたリアムが、場所を特定したノアに怪訝な視線を送る。視線を受けたノアは肩を竦めて見せた。


「オレはここにネックレスがあるという情報しか得られてないよ。どういう経緯でここにきたかまでは分からない」

「なるほど。お前たち、ネックレスを返してもらおうか」

「……ネックレス?」


すっかり無視され進んでいく会話にむっと顔を顰めていた子供たちであったが、突然問いがそちらへと向けばきょとんと目を瞬いた。

演技とは思いにくい。本当に心当たりがないのだろう。


「間違いということはないの?」


困惑したイザベラがノアに改めて問うとノアは首を傾げた。


「ネックレスがここにあったというのは事実だね。だけど…今もここにあるかどうかは分からない」


ノアの言葉に少年がはっと目を見張る。どうやら先ほどまでここには他の誰かがいたようだ。それが盗人なのだろうか。


「心当たりがあるようだな」


表情の変化に気付いたリアムが剣呑な視線を向けた。そこには若干の殺意が込められており、子供たちは怯えたように息を呑み身体を寄せ合う。

まるで魔王が市民を襲うかのような光景にイザベラが苦笑して止めに入った。


「ちょっとリアム。子供たちを怯えさせるのはやめてちょうだい。ねえあなたたち、教えてくれない?さっきまで誰か他にいたのね?」

「そ、そんなこと教えるわけねーだろ!」


一番最初に立ち向かってきた少年が果敢に声を震わせながら叫ぶように言った。

まあ確かに、どう考えても彼らにとって怪しいのはこちらの方である。そんな相手に素直に肯定してくれるわけがないのだ。

イザベラは思案するように視線を彷徨わせた。なんとか彼らの警戒を解き、信頼してもらって事実を教えてもらう方法はないだろうか。

そんなとき、最も小さい女の子のお腹がくうと鳴る音が響いた。イザベラは目を瞬く。


「お腹が空いてるの?」

「空いてねーよ!」

「……うん、いつだって腹ペコだよ」

「おい!余計なこと言うんじゃねーよ!」

「だってぇ…」

「ええと、誰か食べものとか持ってない?」

「ありますよ。パンでよければ」


イザベラたちを置いて揉めだしてしまった子供たちを前に、尋ねるとシャーロットが懐からパンを取り出した。そして子供たちの前に進んでいきパンを差し出す。


「はい、どうぞ」


見た目からして最も無害に見える彼女からの恵みに子供たちは躊躇う様子を見せたものの、空腹の前では抵抗も虚しくひったくるようにシャーロットからパンを受け取ると貪るようにして食べ始めた。


「……もっと食料を持ってくれば良かったわね」

「お前…こいつらが何をしたのか分かっているのか」


あからさまに飢えた様子の子どもたちに対してイザベラがつぶやくと、呆れたようにリアムが零した。


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