84 スラム街
「ここがスラム…思っていたより…なんというか…」
シャーロットの強い意見によりすぐさまスラム街へと訪れた4人であったが、一歩そこに足を踏み入れてからその表情は曇ってしまった。
あの華やかな花の都市の一画とは思えない。第一に衛生状況がとても悪そうで、道端のあらゆる場所に人が蹲っている。もしかしたら怪我をしているのかもしれないあるいは病気だろうか。
シャーロットの能力があれば治療してやれないこともないが、きっとキリがないだろうし、今はそちらを優先するわけにはいかない。
外だというのにどこからともなく咽せ返るような悪臭が漂い鼻を刺激する。
こんな環境で生活している者たちも存在するのかと、あまりのやるせなさに肩を落としてしまった。
イザベラたちはどう見ても場違いであり、案の定至るところから探るような警戒するような視線を感じる。
ノアは一度立ち止まると隠そうともせず溜息を零した。
「さすがにここでの聞き込みは反対するよ。物が奪われるだけならいい方だと言えるかもしれない状態に陥るのは御免だ」
「そう…ね。でも人を探すにはそれ以外の方法なんて…」
何か策をと思案したイザベラだったが、ノアは隣で何か詠唱を始めた。程なくして一羽の鳥が現れた。
姿としては鳳凰に近い。が、イメージする鳳凰よりも小さい。サイズ感は普通の鳥のようだ。
ノアの召喚した鳳凰のような鳥はノアの手に止まっていたかと思うと、ノアから何かを囁かれ心得たと言わんばかりに羽ばたいていってしまった。
「ええと、今のは…?」
「可愛いでしょ?あの子に探してきてもらおうと思ってさ」
「……どうやって?」
「あの子は魔力を感じ取ることができる。ネックレスは元々君のものだったんだろう?であれば、その残滓を感じ取ることができるはずだ。盗人自身を発見できるかは分からないけど、オレたちの本命はネックレスだからね」
淡々と説明されたが、かなり凄いことなのではないだろうか。やはりAランクは伊達じゃないらしい。
スラムを不用意にうろつくのは危険だという認識は皆一致しているため、極力人目のないところに固まってノアの召喚獣にしばらく委ねることにした。
リアムは相変わらずノアのことを警戒しているようで、普段よりも一層口数が少ない上にイライラした空気を発していた。
シャーロットは元々口数があまり多くない上にマイペースであるため、感情は読めないがスラム街に何か思うところがあるらしく、路地に座り込んでいる子供たちの姿にじっと視線を向けている。
そんなわけで、必然的に残されたイザベラとノアを中心に会話が進展していくわけなのだが、ノアと話しているとリアムの視線がとても痛い。
お前ももっと警戒しろということなのだろうが…正直今はノアの助けがとてもありがたいため、離れたくはなかった。
ノアはどう思われようとも特に気にしないようで、本当に気遣いなくイザベラに話しかけてくる。
なんだか間に挟まれてしまった気分のイザベラはまだ盗人を見つけられたわけでもないのに、既にぐったりとしていた。




