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78 コンテスト 前

イザベラの願いも虚しく、あっという間にコンテスト当日になってしまった。

ノアと打ち合わせは重ねたし、イザベラにはとっておきの秘策もあるため優勝する自信はそれなりにあるが、人前に立つ経験などあまりないため、そう意味での緊張は大きい。

舞台裏でそわそわと落ち着きのないイザベラの肩を、隣に立っていたノアがそっと抱いた。


「ノア…」

「緊張しているのかい?オレのプリンセス」

「……何それ」

「おいおいそんな冷たい目で見ないでよ。オレたちは今日は理想のカップルなんでしょう?」

「それはそうだけど」


意図せず冷ややかな視線を浴びせてしまい、イザベラは決まり悪そうに顔を逸らした。だがノアのおかげで緊張感はだいぶ和らいだ。どこまで狙った行為なのだか。


「さあ、オレたちの出番だよ。行こうイザベラ」


にこやかに微笑まれ、さり気なく手を引かれる。出会った当初から思っていたのだがノアは本当にエスコートが巧みである。イザベラはノアにエスコートされながら、歓声の中に身を投じた。



ふわり、と舞台に桜の花びらが舞う。

儚げにされど息を呑むほどに美しい花が舞い落ち、視界が開けると舞台上には一本の立派な桜の木と、それを見上げる一人の青年の姿があった。

青年は容姿もさることながら、立ち居振る舞いも美しい。観客の視線が一心に注がれる。

だが、なぜ一人なのだ?理想のカップルというテーマなはずなのに。と各々が不審がっていたところで、桜の木に舞い降りた一人の女性がいた。

絹のようなプラチナブロンドがさらりと流れて顔が露わになると、現実離れしたその美しさに観客がざわめく。

人というよりはまさしく天女あるいは女神と表現した方がいいようなほどに神々しいその女性を、青年がはっとした顔で見上げた。

天女が嬉しそうというよりはどこか悲しそうな表情を浮かべて彼の腕にそっと自身の手を寄せる。

その指先が青年に触れると共に、青年が堪らずといった様子で彼女を抱きしめた。

観客からは青年の横顔しか見えないが、青年の頬にすっと一筋の涙が伝う。

彼女は…もしかすると、この世のものではないのかもしれない。


そのままいつまでも抱きしめているのかと思ったが、何を思ったかひらりと彼女が青年の腕から抜け出した。

そして純白の神秘的な衣装をはためかせながら、舞うように舞台を歩く。

青年はただ呆然と佇んでその姿を見るのみだ。

ひらりひらりと舞う彼女の後を観客たちが目で追っていると、ようやく青年の傍までやってきた。

向かい合う二人。少しの沈黙の後、青年が彼女の脇をそっと素通りする。

背中合わせに立ち、躊躇った様子を見せるものの、去ってゆく青年。

彼女は振り返ることなく、そっと桜の木に寄り添うように立つ。

ざわりと花が舞い、たちまち桜の花びらが視界を遮った。

そこにはもう彼女の姿はない。

そして、何かに決別し決意を新たにした青年だけが、力強く舞台から去っていくのだった。

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