76 優勝への道
「君黒魔道士ってことは冒険者だよね?どこに泊まってるの?オレも同じところに泊まろうかな」
(……やっぱりナンパ?)
その後にこやかに続けられた言葉にイザベラの眉根は寄せられたものの、共に宿に向かいその後宿のロビーで戦略を練ることにした。
「理想のカップルかあ…君はどう思う?」
「単純に考えれば、仲の良い二人ってことなんでしょうけど…きっとそれじゃあ印象に残らないでしょうね。大事なのは意外性だと思うわ」
「意外性かあ」
「ええ、意外性とそれからストーリー性かしら。どうせなら物語っぽく仕上げた方がいいんじゃないかしら。あとはここ花の都市に因んで花を扱ってもいいわね」
「ふうん、なるほど。次々に案が出てくるね」
「……そうかしら」
なぜかここにきてから頭を使うことが多くなっていたので、何となく考える癖がついているのかもしれない。
「二週間となると、日も浅いからね。準備に多く時間を使うこともできないし、君の言う通り意外性を狙っての演出はいいかもしれない。それに…それならオレの能力も役に立つかも?」
「あなたの能力…?」
「そう、オレは召喚士だって言っただろ?それをうまく使って演出ができないかなと思ってさ」
「なるほどね。……そうか、それなら私にも策があるわ」
「へえ?それは心強いな」
「じゃあ早速試してみましょう?あなたの能力とやらも見せて欲しいし」
イザベラがロビーのソファから立ち上がり、外に出るように促した。ノアはすぐに席を立ってイザベラと共に歩きだす。
「いいけど、どこに行くつもりだい?」
「それはもちろん…ギルド協会よ」
「ギルド協会?」
「ええ、宿代を稼がなきゃ。あと人を探してるの。ついでにいいでしょ?」
「君はなかなか強かだな…いいよ、協力しよう」
ノアはまだよく分からないが、なかなか話の分かる人なのかもしれない。並んで歩きつつイザベラはちらりとその横顔を確かめた。
(やたらと整った顔してるのよね…もしかして、攻略対象者だったりする…のかしら)
はたと思い当たり目を瞠る。そういえば盗難事件や人探しで頭がいっぱいであったが、そもそもこれは恋愛ゲームなのだ。
攻略対象者がいないままゲームが続いていくことは考えられにくい。
もしかすると、盗難事件は予めシナリオに組み込まれていて、ノアと協力し仲を深めていくことが本筋だったのかもしれない。
そうであれば、またリアムとシャーロットとの再会は遠のきそうである。
彼らは一体今何をしているのか。
(こんなに長い間出会えないなんて…二人きり、なのよね…)
二人の仲睦まじい様子を想像してしまい、つきんと胸が痛む。
(……何で?)
イザベラはそっと自身の胸に手を乗せた。一体何が原因で今胸を痛めたのか。
まだその理由を彼女は理解していなかった。




