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75 ナンパされました?

突然肩を叩かれ、びくりと身体を跳ねさせたイザベラが振り返ると、そこには背の高い鍛え上げられた肉体をした青年が立っていた。にこやかに微笑む姿は親しみやすく、無造作に跳ねた赤茶色の髪に茶色の瞳は人好きのする雰囲気である。何だか少しチャラそうな感じがしないでもないが…もしかしてナンパだろうか。

このタイミングで?うんざりとした内心が現れていたようで、イザベラに声をかけてきた青年が苦笑して肩に添えていた手を離した。


「突然ごめんね。なんだか落ち込んでいたようだったから、気になって」

(やっぱりナンパ?)

「いえ、平気です。お構いなく」


すげなくばっさりと言い切ったイザベラに青年が肩を竦めて見せる。


「もしかしてオレ、ナンパだと思われてる?」

「……違うんですか?」


青年に向き合い、イザベラは眉を顰めた。まだ違うと断言出来たわけではない。そういう作戦かもしれないからだ。この姿になってからというもの、やたらと絡まれることが多かったので大体のナンパへの対応策は会得済みであった。


イザベラの警戒丸出しの姿勢に青年が困惑気味に頬を掻いた。


「どうやったら信じてもらえるのかなあ…あ、君さ、コンテストに出ようと思ってたんじゃない?」

「そうですけど…」

「実はオレもコンテストに興味があって、でも連れも居ないから誰か一緒に出てくれる人を探してたんだ。もし良ければどうかな?」

「え…」


確かに願ったり叶ったりではある。彼は華があり端正な顔つきだ。おそらく彼となら正攻法でコンテスト優勝を狙うこともできるだろう。

だが…本当に信頼してもいいのだろうか。

それにコンテストに出るのだとしたら、ある程度練習や打ち合わせも必要になってくるだろう。

リアムとシャーロットを探さず、そんなことをしていてもいいのだろうか。

あらゆる疑問が脳裏をよぎり、なかなかイザベラが答えを出せないでいると、再び青年が口を開いた。


「まだ名前すら名乗ってなかったね。オレはノア、召喚士だ。コンテストに訳あって出場しなければならなくなったんだけど、もし出るなら確実に優勝したい。だから優勝出来そうな子を探してたんだ。君となら優勝を狙えるんじゃないかと思ってね。それに君もコンテストに興味がありそうだったし…」

「……いいわよ」


どうやら興味本位というわけではないらしい。具体的な理由を聞き、イザベラは頷くことにした。とりあえず彼と利害は一致している。


「君の狙いは?」

「私の名前はイザベラ、黒魔道士よ。コンテスト出場の狙いはただ一つ、神秘のネックレスを手に入れること。あなたは優勝が狙いだと言っていたけど、神秘のネックレスが欲しいのかしら?もしそれが目的であれば、手を組むことは出来ないわね」

「イザベラか、よろしくね。オレの狙いも確かに神秘のネックレスだけど、手に入れることが目的ではないんだ。少し確認したいことがあって…それを終えたら君のものにしてくれて構わないよ」

「……そう」

「じゃあ決まりだ。一緒に優勝を目指そう」


にこやかに微笑み手を差し出したノアの手を、イザベラは取ることにした。


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