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71 エルフの決意

暫く鬱蒼とした茂みが続いていたが、ふと眩い光が視界の先に見えイザベラの瞳が輝く。

さすがに数時間ぶっ通しで歩いていると疲労を感じずにはいられなかった。ついに到着したのだろうか。確認したかったがレイルは無言のまま進んでゆく。

そして光の元へと辿り着くと、二人は急にレンガで舗装された道へと出た。

どうやら正式な出口から出たというよりは、森の隙間から出てきたに近いみたいだ。


(それもそうか、そもそも国交も遮断されていたわけなんだし)


獣道ばかりを歩いていたため、何だか舗装された道を見るのは久方ぶりで戸惑ってしまう。

そこは大通りからは少し離れており中心地を外れているからか、今のところ人の気配はなかった。

さすがに栄えていそうな都市であることは端から見ていても分かる。レイルとはここでお別れだろうか、と彼の方へ目をやれば彼はなぜか森の方を見ていた。


(何か…あ、…)


レイルが見ている方へイザベラも目を向けると、そこには看板が立っていた。


「聖なる森への立ち入りを禁ず…」

「……俺はずっとこの都市の住人が森に入らないのは、モンスターを恐れているからだと思っていた。もしモンスターがいなくなったことを知れば再び侵略を始めるものだと…だが、これは…」

「あなた達のことを敬っているみたいね」

「……ああ。俺は…俺たちは長い間人間のことを勘違いしていたようだ」

「迫害された歴史があるのもまた事実なのでしょう?仕方のないことだわ」

「ああ、けど…。俺たちは変わらなければならない。……ありがとうイザベラ。お前が教えてくれた」

「そんな、私は別に…」


ただ仲間に会おうとしていただけだ。あとは自分のせいで子供たちに危害が加えられないようにしただけ。どれもこれも自分勝手な理由であり、感謝される覚えなどなかった。

思わずイザベラが苦笑したが、レイルは何を思ったかイザベラに向き直ると膝をつき、イザベラの手を取った。


「レイル!?」

「……これから俺たちは再び人間に歩み寄ろうと思う。俺はお前の言っていた人間とエルフの共生を目指す。そのためにイザベラ、俺の隣で俺と共にこの先の人生を歩んでくれないか」

「……え」

「イザベラ、俺はお前を愛している」


レイルが真摯な瞳で真っ直ぐにイザベラを見上げそう告げたかと思うと、手の甲へと唇を押し当てた。まるで騎士が忠誠を誓うような仕草にイザベラの心臓がドキドキと煩く鳴り続ける。


「レイル…その、気持ちはとても嬉しいわ…」


イザベラの言葉に困惑の色を感じ取ったのだろう。レイルは手を離し優美に立ち上がるとイザベラに優しく微笑みかけた。


「お前を困らせたな、すまない。お前にはお前の野望があるのを失念していた」

「そうね…でもエルフと人間の共生も勿論心から願っているわ。エルフと人間だけじゃない、全ての種族が共存できればいいとも思ってる」

「それは随分と大きな夢だな。…イザベラ、魔王を倒すことができた際には俺と共にその夢を叶えようじゃないか。俺はそれまでにまずは自分の郷のエルフとこの花の都市の人間が共存できるよう働きかけることに注力することにしよう」

「ええ、それは素晴らしい未来だわ」


もう少しだけレイルと互いの夢について語っていたくて、イザベラは今だけ時間が過ぎることを気にしないことにした。

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