7 早速詰みました
あれから一週間が経った。
つまり出発日まで残り3/4ということである。
これはマズイ。非常にマズイ。
どうマズイかというと、まず予想通りイザベラは黒魔法で躓いた。
黒魔道士と認定されたあの日、父から予想の5倍分厚い本を渡され、気絶しそうになりながらも毎日熟読し、魔法の練習に励んだ…のだが、如何せん魔法なんて今まで使ったことがないのだ。そう簡単にホイホイ使えるわけがない。いやここは恋愛ゲームの世界なのだから本来であればホイホイ使えてもいいはずなのだが。このゲームは甘くはなかった。
今日も庭で懸命に魔法の練習に励みながら、私って一体何しにここに来たんだっけ…?と、疑問を感じずにはいられなかった。
もう一つのマズイことといえば、もちろん攻略対象であるエリックとのことであった。
彼の好感度が最初からMAXっぽかったので、余裕じゃん!と思ったのだか…どういうわけかあれ以降何度接触を試みても、信じられないほど彼との仲は進展しなかった。
仲を進展も何も、あとは多分彼からの告白くらいしかないのだろうが、押しても引いても一向に彼が告白してくれないのだ!どういうことだ!?こんな絶世の美女に迫られてるのに?だったらあの気のある素振りは何なんだ?何が足りない?そもそもエリックは攻略対象者じゃなかったのか?とすら考えてしまうほどに、イザベラは行き詰まっていた。
そして恋愛面で行き詰まった結果、せっせと魔法の練習に打ち込んでいるのである。つまりは現実逃避であった。
「はあ…」
「あら、イザベラ。溜息なんかついてどうしたの?ふふ、私が練習に付き合いましょうか?」
「ひっ、お母様!」
イザベラが庭で佇んでいると、背後から気配を殺して近付いてきた母に声を掛けられ、文字通り飛び上がる。
母のことはもちろん好きだ。家族想いの素晴らしい人物なのである。だが…
「お、お母様との練習は…私にはまだ早いかと」
「そう?残念だわ」
母は予想通りソードマスターであった。そう、ただの剣士ではない。最上位職の一つであるソードマスターなのだ。つまり、脳筋の中の脳筋ということだ(もちろん全員が脳筋というわけではないだろうが少なくとも母は脳筋であった)
その危険性を知らなかった私は序盤にうっかり母の申し出を受けてしまい、練習に付き合ってもらったのだ。そして学習した。もう二度と母とやり合ってはいけないということを。
おっとりとした雰囲気に騙されてはいけない。戦略も何もあったものじゃない。母の戦い方は紛れもなく火力によるゴリ押しだったのだ。
これでは命がいくつあっても足りない。冒険に出る前に命を落とすかもと本気で思った。実際父が助けてくれなかったら本当にヤバかった。今日はその頼りになる父が不在である。つまりこの誘いを受けてしまえば私は確実に死ぬ。
婉曲な拒否であったが、流石は母親。娘の心情をある程度慮ってくれたようで、案外すんなりと引き下がってくれたことにイザベラは安堵した。
「それにしても随分頑張ってるみたいね。そろそろクエストを受けてみてもいいんじゃないかしら?」
「クエスト…?」
(そういえばそんなのもあったな)
すっかり忘れていた。この一週間は家の庭で魔法の練習をするか、もしくはエリックの周りをうろちょろするくらいしかしていなかった。
このまま同じことを繰り返すよりは、別の行動パターンを取った方が打開策に繋がるかもしれない。
打算としか言えない考えの結果、母の提案に頷いた。
「そうね。今日はクエストを行ってみることにします」
「ええ!応援してるわ、イザベラ」
母のいつもの溢れんばかりのとても脳筋とは思えぬ笑顔に見送られ、イザベラはギルド協会へと足を運ぶことにしたのであった。