67 ボスとの戦闘 後
イザベラが下がったところには、レイルがいた。レイルをちらりと見上げると赤い顔をしていた。熱でもあるのだろうかとイザベラが首を傾げる。
イザベラが近寄ってきたことに気付いたレイルが頬を擦り視線を絡ませた。
「アイツの足止めは俺に任せろ」
「……お願いするわ」
言葉少なに互いの意思を確かめ合い、再び距離を開ける。少年の興味はどうやらイザベラではなく完全にレイルへと移ったらしい。器とは一体なんだろうか。それに魔王の気配というのも詳しく聞かなければ。
少年の魔力は無尽蔵なのか、風の刃を今度はレイルに向けて放つ。
レイルは少年に負けず動きが機敏で、難なく避けつつ少年に向けて弓を放っていた。
二人の実力は一見互角に見えるが、少年には他にも攻撃手段が多くある。一方レイルは物理攻撃が基本だ、このままでは押し負けてしまうだろう。
イザベラは自分から気が逸れていることを利用しようと、詠唱に時間のかかる魔法を行うことにした。
「光よ…我に応えよ…」
少しずつイザベラに魔力が集まってゆく。きっとこれを外せばもう魔力は枯れてしまうだろう。そんな予感があったが、この詠唱を今は止めることはできない。もう自分たちにはこれしか手がないのだ。
「闇を穿ち、この地を光で染め上げろ!いでよ!光の守護者!」
イザベラの身体が強く光り、イザベラの足元に巨大な魔法陣が浮かんだ。そして全身の魔力が集まったかと思うと空がオーロラのような光に包まれ、稲妻でできた大きな鳥が舞い降りる。
周囲をピリつかせる電気をまとった空気に足を止めていた少年とレイルが、現れた巨大な鳥にはっとしたように目を見張った。
「なんだよこの鳥…!」
「すごい…なんて魔力だ…」
光が作った神獣はおそろしく美しかった。イザベラの能力では逆立ちしても出せないであろうそれを出せた理由は多分、光のレイピアという武器の力と、この周囲それからイザベラから感じたという魔王の魔力のおかげであろうことが察せられた。一か八かの賭けにどうやら無事自分は勝利することができたらしい。
「禍々しいあの者を貫きたまえ…!」
現れた鳥はイザベラの頭上をくるりと優雅に舞ってから、命じられた通りエルフの少年へと襲いかかる。
少年は慌てて先程と同じく闇の球を作り鳥へと放ったが、大きな翼を羽ばたかせるだけで無効化されてしまい、凄まじい勢いで少年の身体を貫いた。
少年は鳥の勢いに押され、鳥と共に宙へと舞う。そして緑色の血を口から溢したかと思うと地面へと叩きつけられた。
鳥は何事もなかったかのようにひらりと舞い、姿を消した。
地面へ俯せに倒れた少年はぴくりとも動かない。
イザベラとレイルは顔を見合わせて頷き合うと、おそるおそる少年のところへ近付いた。




