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65 ボスとの戦闘 前

「……え?この子も行方不明の…」

「待てイザベラ!そいつに近寄るな!」


その少年に見覚えはなかったが、イザベラが知らないだけで行方不明の一人かと思い近づこうとしたところ、レイルから鋭い制止が入り、足を止めた。

すると、それとほぼ同じタイミングで何か刃のようなものがイザベラの少し前にある地面を深く抉り取った。


「……っ…」


レイルの声に足を止めていなければ今頃イザベラは風の刃に身体を切り裂かれていたことだろう。ぞっと恐怖がイザベラの身体を駆け抜け、身が竦む。

震える足を何とか叱咤し、レイピアを掲げて詠唱した。


「光よ…!」


イザベラの言葉と共に空から稲妻が少年の身体を貫いた、ように思えたが、少年は素早くステップを踏むように攻撃を避けて、顔を上げ笑って見せた。


「あははっ!君たちは一体誰?ボクの邪魔をしにきたの?」


少年が笑いながら手を振ると、それに応じて風の刃が飛んでくる。イザベラが対抗して同じく風魔法をぶつけて相殺したが、防ぎきれなかった攻撃がイザベラの身体を切り裂いた。

ピリッとした痛みと共に血が舞い、顔を歪ませる。

が、怯んでいるわけにはいかない。ここには子供たちだっているのだ。イザベラが彼らを守らなければ。

そう思い相手より先に攻撃すべく、氷で作った弓を相手に向けて放つ。

少年に向けて降り注いだ氷の弓にを少年は楽しそうに踊るように避け回った。


「君結構強いね!でも人間だ…人間じゃボクの器にはなれない…」

「器?…氷よ…!」


少年の言葉が引っ掛かったが、彼が攻撃を仕掛ける隙を与えぬよう続け様に氷を放ってゆく。

横目で背後を伺うと、レイルは子供たちを陰に移動させているのか、姿が見えなかった。

できることなら、自分一人で少年を仕留めてしまいたかったが、力の差は歴然であった。

多分このままだと時期に押し負けるだろう。何せイザベラの魔力はどんどん減っているのに対して、少年は遊んでいるかのように余裕たっぷりである。


「ねえ、お姉さん。お姉さんから魔王の気配がするのはどうして?お姉さんは魔王じゃないんでしょ?」

「っは?魔王の気配ですって?」


先程から少年は一体なにを言っているのだろうか。

魔王の気配と言われても、イザベラには全く心当たりがない。確かにいずれ会いたいとは思っているが、まさか思っているだけで気配を纏わせることはないだろう。


「ボク魔王には感謝してるんだあ。魔王のおかげでこれだけボクが動けるようになったんだもの。あとは器があれば完全に復活できるのに…その子たちじゃ弱すぎてボクの器には相応しくない」


少年が今度は黒い禍々しい球体のようなものをイザベラに飛ばしてきた。本能的に触れてはいけないと感じ、光魔法で打ち砕く。


「復活?それじゃあ、子供たちをさらった犯人はあなたなのね…!」

「そうとも言えるのかな?ボクは自分の器を探してただけだけど」


ここまで意思疎通ができるモンスターも珍しい。思考回路は別として、会話が成立していることに改めてイザベラはぞっとした。それだけこの少年が強力であるという証拠でもある。これではレイルが戻ってきたところで倒せるかどうかも怪しいかもしれない。


(なにか策を考えないと…)


焦るイザベラを嘲笑うように、黒い球体の合間に風の刃が繰り出された。防ぎ切れずイザベラの身体に傷が増えていく。いくら自動回復付きのネックレスをつけているとはいえ、明らかにダメージを受ける速さの方が上回っていた。

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