64 子供たち
レイルと二人森を進んでいくと、急に拓けた空間に出た。
レイルの警戒心が強まり弓を構える姿を見て、イザベラも慌ててレイピアを構える。
気配探知をすると、確かに強力なモンスターの気配を感じる。だが今は近くにはいないようだ。
「こんな場所...俺の記憶にはない」
「え?」
この場所に以前来たことのあるようなレイルの口振りに、イザベラは動きを止めて視線を彼に向けた。
イザベラの言いたいことを察してか、目のあったレイルがふるりと首を横に振る。
「ああ、いや...記憶にないというのは...ここに来たことはないのだが、俺達は皆子供の頃、迷いの森の地図を覚えさせられる。だから道にも迷わない。だが、地図ではここは小路しかなかったはずだ。考えられるのは、地図が間違っていたか、もしくは...地形が変わった」
どちらにせよあまり喜ばしい話ではなかった。エルフがこの森を迷わない理由は分かったが、おそらくその地図が出来たのはおよそ千年前。となると、地形が変わっている可能性もなくはない。
もしくはそもそも凶悪なモンスターなど最初からいなかったということも考えられる。なぜなら郷のエルフたちが迷いの森を抜けて花の都市に行こうと思われては困る事情が当時はあったからだ。
ただその話を今悠長にレイルとしている場合ではなかった。今は子供たちを見つけ出すことが最優先である。
イザベラは周囲を探るように目を向けた。すると、誰かが森を掻き分けて出来たような細い道が目に止まった。
「ねえ、レイル!見て!ここ通れるみたい!」
「……本当だ」
イザベラの声に別のところを探っていたレイルが顔を向けた。そしてイザベラより先に獣道へと足を向ける。がさりと草を掻き分けると、なんとか人が通れそうだ。
イザベラを置いてさっさと獣道の先へと進んでいくレイルの後をイザベラは慌てて追いかけた。イザベラがようやくレイルに追いついたとき、獣道が途切れ奥に小さな空間が広がっていることが分かった。
そしてその空間に、行方不明となった子供たちが皆倒れていた。
レイルはイザベラよりも先にそこに辿り着き、一人を抱き抱えている。
「レイル…!子供たちが…!」
「ああ、全員眠っているだけのようだ。傷もない」
「……よかった…」
子供たちが自らこの場所に来たのか、何者かに連れ去られてここにきたのかは分からないが、とにかく全員が無事であったことにイザベラは安堵する。
回復魔法はかけられないが、魔法薬を飲ませようと彼らに近づいたときだった。
急に背後からぞっとするような気配を感じ、イザベラはレイピアを構えて振り返る。
「……誰!出てきなさい!」
イザベラの言葉に反応してか、ゆらりと姿を表したその影は一人のエルフの少年であった。




