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63 旅に出る理由

「あなたは外の世界に出たいと思わないの?」


イザベラの問いにレイルは驚いたように目を瞠り、考え込む仕草を見せた。


「分からない。考えたこともなかった」

「……そう」

「お前は外の世界が見たくて、旅に出たのか?」

「え?……私は…」


思いがけずレイルから同じ問いを返され、不意を突かれたイザベラは困惑する。


(私が旅に出た理由…魔王を攻略するため、だけど…それは女神に言われたからであって、私自身の意思ではないのかもしれない。私が旅に出ることが当たり前だと思っていたように、レイルは郷で暮らすことが当たり前だと思っていたのかしら)


「私は魔王を倒すために旅に出たの」

「魔王を…?」


イザベラの答えが予想外だったのか、レイルがぽかんとした顔を浮かべた。


(例え女神に言われたことが動機だったとしても、私自身が旅に出たいと思ったことには違いないわ。エリックやロビン、それにアーノルド…彼らと共に残る選択肢だってあった。元の世界に戻るという選択肢も。それでも今こうして私が進んだのは、自分がそうしたかったからに他ならない)


レイルのおかげで大切なことに気付かされたのかもしれない。レイルの話を聞いていたはずが、イザベラの方がすっきりとした気分にしてもらったのではないだろうか。


「そう、魔王よ!変かしら?」

「っふ、まさかそんな大きな野望を持っていたとはな…!っはは、人間とは実に欲深い生き物だ」

「ええ。人間は欲深いの。だからね、魔王を倒すのは勿論だけれど、私は人間とエルフの共生を目指すわ」

「人間とエルフの共生だって?」

「そうよ、共に手を取りあえばきっとより良い未来が描けるはず。これも夢物語かしら?」

「なるほど…様々なしがらみもある。すぐにとはいかないだろうが…このまま断絶し続けたとしても、我々に待っているのは種の絶滅だろう。この森を抜けることが出来たのなら…考えてみるのも悪くない」


レイルは実にリベラルな考え方をするなとイザベラは思った。彼は常にエルフの郷の村長として住人たちにとって最も良いと思える行動を取ろうとしている。そんな彼が率いるのならば、きっと郷の者たちの考え方も次第に変わっていくことだろう。

イザベラが人間として彼らの役に立てることがあるなら、全力で実行するのみだ。


(まあ今は、消えた子供たちを見つけ出すことが最優先なんだけどね)


イザベラがそう思ったタイミングでレイルも同じことを思ったらしい。凭れていた幹から身体を起こすと、再び歩き出した。


「さあ、休憩は終わりだ。進もう」

「ええ」


目指すはこの森のボスだ。子供たちがそこに無事に居てくれればいいのだが。イザベラは深呼吸を一度してから、レイルの後を追った。

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