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62 人間嫌いのエルフたち

イザベラの言葉にレイルはしばらく反応を見せなかったが、やがてゆっくりと口を開いた。


「この事件の原因がお前にあるのかどうかは分からないが、俺を含めて郷の者は皆そもそも人間が好きではない」

「そういえば前にもそんなこと言っていたわね」

「……俺たちがこの郷にいるのは、元いた住処を人間に追い出されたからなんだ」

「え、…」


思いがけないレイルの告白にイザベラは目を見開いた。

単純に種族が異なるからという理由で嫌っていたわけではなかったということを知り、自分の浅はかさに内心ショックを受けながらも、首を傾げて続きを促す。


「千年ほど前、エルフは今でいう花の都市と呼ばれる土地で暮らしていた。だが…エルフという珍しさと美しさから人間たちの手によって乱獲されるようになり、次第にエルフは森へ森へと逃げるようになった。そしてついには今あるエルフの郷にまでやってきた。その頃にはエルフの数はかなり減っており、長命でなければとうに滅んでいただろう。その後、迷いの森に凶悪なモンスターが住み着くようになった。そいつは皮肉にも人間からエルフを守る存在にもなってくれた。…そして今に至るというわけだ」

「……そう、それであなたたちは郷の外に出ようとしなかったのね」


人間はどこの世界でも欲深い生き物だ。さもありなんとイザベラは思い、俯いた。そんな歴史を持っていて人間のことを好きに思えるはずがない。人間と見ただけで殺してもおかしくないくらいの歴史だ。それなのに彼らはイザベラに対して友好的に振る舞ってくれた。

この事件さえ起きなければ、きっと今でもイザベラのことを住人の一人として扱ってくれていただろう。

そんな彼らのために、これ以上苦しまないようにイザベラが出来る手はないかと思案する。


「ねえ」

「なんだ?」

「もしかすると、凶悪なモンスターを退治してしまうことになるかもしれないのよね」

「そうだな」

「だとしたら、花の都市からエルフの郷を守る手段がなくなるってことなのよね」

「……ああ」

「それは…いいの?」

「覚悟している」

「そう…。花の都市の人たちにはまだ会ったことないから絶対とは言い切れないけれど、もし彼らがあなたたちをまた乱獲しようと考えているのなら、私が彼らを説得するわ」

「……お前が?」

「ええ、私それなりに強いの。知ってるでしょ?」

「同じ人間からエルフを守るというのか?」

「種族なんて関係ないわよ。あなたたちだって人間である私のことを助けてくれたじゃない」

「それはそうだが」

「私だって恩返しがしたいの。それにね、きっと人間はもうあなたたちを狩ろうとはしないと思うわ」

「なぜだ?」

「はっきりとした理由を言えるわけじゃないけれど…。この千年の間に人間の情勢も大きく変化しているのよ。きっと今千年前と同じような振る舞いをしたら、世界中から非難されるでしょうね」

「そうか、俺たちの知らぬ間に世界も変化しているのだな」


レイルの顔が物憂げに曇る。彼の考え方はイザベラにはまだ理解できなかった。


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