61 迷いの森
迷いの森には初めて足を踏み入れたが、鬱蒼とした陽の当たらないジメジメとした薄暗い場所であった。
足場は泥濘が多く安定しない。
イザベラは泥を跳ねさせながら懸命にレイルの後を追っていた。
レイルはイザベラと同じ道を歩いているはずなのに実に軽やかに進んでゆく。
(これは一人で歩いてたら絶対に迷うわね...さすが迷いの森)
例えて言うなら樹海だろうか。どこを見ても似たような景色に見える。レイルはエルフならこの森では迷わないと言っていたが、一体どうやって判断しているのだろう。何か人とは違う機能が備わっているのだろうか。
イザベラが考えを巡らせていると、モンスターに遭遇した。
先程からモンスターの遭遇率はとても高かった。強さはそこまでではないのだが、とにかく数が多い。
レイピアを掲げたイザベラが範囲魔法を放つ。レイルが弓で援護射撃を行い、モンスターを一掃した。
何度も戦闘を行なっていると、何となく役割分担とやらが生まれてくるものだ。
レイルはどうやら弓使いらしいので、二人で組むと一応剣を持っているイザベラが前に出ることになる。
(持っててよかった神秘のネックレス…!)
ここにきて、レイピアとネックレスは大活躍である。レイルもそこまでイザベラが戦えると思っていなかったようで、驚きながらも人間もなかなかやるのだなと褒めてくれた。
とりあえず足でまといにならずに済んだことには感謝したい。
レイルの弓は中距離から敵に攻撃するのが最も威力が高そうだ。今まで弓使いを見ることはなかったので、なんだか新鮮な気持ちである。
しばらく戦ううちに、イザベラが範囲魔法を使うよりも足止め魔法を使い、そこにレイルが弓で範囲攻撃を行うのが最も効率が良いことに気づき、戦闘スタイルを変えることにした。
息ぴったりに攻撃が決まるのはなんとも言えない快感である。
リアムは一人で十分に強いし、シャーロットは回復メインの補助専門であるため、普段と異なる戦い方を行いながらイザベラは自分が成長していることを実感した。
(今までがむしゃらに頑張ってきたけど、重ねた努力は決して無駄じゃなかったんだ…)
イザベラがじーんと感動に浸っていると、先を進んでいたレイルが振り返った。
「疲れてはいないか、そろそろ休憩しよう」
「ええ、分かったわ。ありがとう」
イザベラが座れそうな大きな石の上に腰を下ろすと、レイルが向かいの木の幹に背を凭れかけた。
持ってきた荷物の中から水を取り出して喉を潤す。
「もう少し進めば、モンスターが見えてくるはずだ」
「もうそこまで来たのね…!」
「ああ、お前のおかげだ」
ふっとレイルに微笑まれ、イザベラが苦笑を浮かべる。
「……そうかしら。私がこの郷にやってきたから、こんな事件が起こったのかもしれないわ」




