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57 誰も出られない

レイルの言葉に頭が真っ白になったイザベラであったが、その後冷静になってから改めて彼の話を聞くことにした。

この郷からは何人たりとも外に出ることは出来ないという彼の言葉の意味を詳しく説明してもらう。


「ここは片側が海、もう片側が森と接している島だ。海はお前が遭難したように、少し進むと常に嵐になっている海域に差し掛かる。だから海からの出入りは不可能だ、お前がここに辿り着いたのは奇跡だな。そして反対側の森だが、ここは通称迷いの森と呼ばれている。まあこの郷のエルフなら迷うことはないのだが、森の奥には強力なモンスターがいて、そのモンスターを倒さない郷から出ることは出来ない。お前が行きたいと言っていた花の都市はこの森を抜けたところにある。だが、森の行き来が出来ない以上、それも難しいだろう」

「そんな...」


あまりにも絶望的な状況にイザベラが項垂れた。


「じゃあ、ここに住む人たちは生まれてから一度もこの島の外に出たことがないっていうの?」

「そうなるな」

「出たいと思ったことは?」

「ない。出る必要もないだろう。誰も特に不自由していない」

「そう、ですか…」


取り付く島もなかった。常に嵐である海を無理に抜けるよりは、迷いの森を抜けて目的地である花の都市に向かう方がいいと思ったのだが、迷いの森で迷わないためには少なくともここの誰かの手を借りる必要がある。

モンスターを倒せるかはまだ分からないが、何もしないよりもマシだ。

だが、誰も出たいと思っていないというのに、出たいというイザベラの言葉を聞いてくれる者がここにはいるのだろうか。

イザベラが活路を見出せないでいると、レイルが困惑したようにくしゃりと自身の髪を掻き撫ぜた。


「だからといって、別にお前を無碍に追い出したりはしない。どうせお前もここで暮らすことになるんだ、ここでの暮らしにはゆっくり慣れていけばいい。……人間は好きじゃないが、お前一人じゃ何も出来ないだろうからな」


(冷たいんだか優しいんだからよく分からない人だわ…まあ人間嫌いなのにここまで手厚くしてくれただけでもありがたいか。しかもここで暮らせばいいとまで言ってくれるなんて)


「ありがとうレイル。じゃあ出ていくときまでどうぞよろしくお願いします。代わりに私の出来ることであれば何でも手伝うわ」

「……ああ。お前は見るからに非力そうだから、怪我が回復したら女たちの手伝いをしてくれ」

「分かったわ」


こうして、イザベラのエルフの郷での暮らしが始まったのだった。

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