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56 エルフの郷

イザベラは嵐の海に投げ出されてすぐに気を失ってしまった。

まあ最悪戻ってもセーブポイントか女神のところに行くだけよねと思いながらも、やはり死ぬのは苦しいし怖い。あまりにもリアルな恐怖に襲われたことで、イザベラは二度とこんな思いはしたくないと心に誓った。

既に海水を大量に飲んでしまい、呼吸がままならない。

あの二人だけでも無事でいられますように…そう願いながら、イザベラは意識を手放した。


その後イザベラは自身の予想とは異なり奇跡的に死ぬことなく、とある海岸まで流れ着いた。

そこには既に嵐の気配はどこにもなく、澄み渡った青空がどこまでも広がっている。

意識のない彼女を見つけたのは、丁度見回りを行なっていたエルフの郷の村長であった。

彼は初めて見た人間の姿にぎょっと驚き目を見張ったものの、そのまま放置して打ち捨てておくわけにもいかず、迷った末意識を失っている彼女を郷まで連れて帰ることにしたのだった。



イザベラが目を覚ますと、そこは見知らぬ天井であった。

木が組まれて造られているらしい家は、どこかで見た記憶がある。


(ログハウス?…そうだ、ホビットハウス…!映画で見たのとそっくりだわ)


ミーハー心を擽られたイザベラがもっと内部をよく見ようと身体を起こすと、身体の至るところに激痛が走った。

あまりの痛みに顔を歪ませていると、ベッドで横になっていたイザベラの隣まで一人の男がやってきた。


「身体が痛むのか」

「あっ、ええと…あなたが私を助けて、…くれたのかしら?」


声をかけられた方を見ると、首下まである男性にしては長い髪の絹のような金髪に碧眼、尖った耳が特徴の美しい男が立っていた。

あまりの美しさに変なところで言葉が詰まってしまったイザベラは、何食わぬ顔で続ける。


男は首を傾げてから、そうだと答えた。


「お前がこの郷の海岸で倒れていたのを見つけて、ここまで連れて帰って来た」

「それはどうもありがとうございます…!」


そういえば自分はまだ生きていたのだ、なんという幸運だろう。

イザベラはそんなことを思いつつ、ここが何処になるのか考えながら家の中を不躾にならない程度に見渡した。


「お前は…人間、なのか?」

「え?」


そんなイザベラの様子をしばらく無言で見ていた男が口を開いたかと思うと、躊躇いがちにそう尋ねた。

イザベラは聞かれた意図が一瞬分からず間の抜けた返事をするも、彼の耳が尖っていることから彼は多分エルフなのだろうと検討をつけ、頷く。


「ええ、私は人間よ。イザベラと申します」

「イザベラか。…俺の名はレイルだ。不躾な質問をして悪かったな」

「いえ、全然気にしてないわ。それより、その…助けて頂いて早速で申し訳ないのだけれど、私仲間と海ではぐれてしまって…ここがどのあたりなのか教えて頂いてもいいかしら」

「どこに行こうとしていたんだ?」

「ええと、花の都市というところよ」

「花の都市か…この郷の傍だな」

「え…!そうなの?よかった…」

「だが、ここからは行くことが出来ない。それどころかこの郷からは何人たりとも外に出ることは出来ない」

「……え?」


真顔で続けるレイルに、冗談でしょ?とはさすがのイザベラも口にすることが出来なかった。


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