54 ささやかな女子会
貿易都市を出発してから、イザベラとシャーロットはリアムから船の操縦方法について学んでいた。
そして分かったことは一人で行うのはかなり難易度が高いということである。
船の操縦と一言で言っても、様々な工程がある。
進路に問題ないか確認し、障害物がないか天候はどうか、動力である魔力量は十分か、スピードは...と考えることは山ほどあるのだ。
リアムは宣言通り苦もなく全てをこなしていたが、説明を聞いただけでイザベラとシャーロットの頭はパンクしそうであった。
そして、イザベラとシャーロットは職が違うからかそれとも性格の違いからか、得意とする分野が異なっていることも分かった。
イザベラは主に天候をよんだり、周囲に障害物がないか探ったりなどの探知系が得意だった。
逆にシャーロットは魔力量のコントロールや船の進路方向を定めることなど、コントロール力に長けていた。
つまり、それぞれが一人で操縦するのは難しいが、二人で協力すればなんとかそれなりに船を動かせるようにまでなってきた。
シャーロットはイザベラよりランクが上なことに加え、冒険者としても先輩であるからか、実に根性がある。
可愛い顔をして意外なのだが、時にはイザベラよりも長い間リアムに学んでいる姿も見かけられた。
それが全て金のためというのだから、お金の力もなかなか侮れないものである。
それにしても、あれだけお金に執着しているシャーロットであったが、彼女自身の金遣いはとても質素である。
一体稼いだ金は何に使っているのか、まだイザベラは彼女に聞けていなかった。
もう少し仲が良くなった時にでも聞いてみようと思っている。
それなりに大きいとはいえ、船内には僅か3人しかいない。
イザベラはシャーロットともよく会話するようになっていた。
今はリアムに舵を任せて、二人でティータイムをとっていた。
船上とは思えないほど優雅にティーカップを口元に運ぶ。
紅茶とティーカップはアーノルドからの贈り物である。
お湯はイザベラが魔法で沸かした。魔法便利。
「ねえ、シャーロット。あなた王都に来るまではどこに居たの?」
シャーロットのことをより知ろうと、イザベラは先程から探り探り質問を重ねていた。
イザベラの問いに、シャーロットが瞬く。そして少し外された目線はどこかもの悲しげであった。
(え、嘘でしょ。まさかもう地雷踏んだ?)
焦るイザベラを横目に、シャーロットが口を開いた。
「私は以前古の都市というところにいました」
「古の都市...?」
「ええ、そこは魔道士が多く暮らす都市で、魔道士にとってはとても住みやすいところです。王都でいえば確かローザさんも古の都市出身だったかと」
「え?ローザ?」
思わぬところで師範の名が出て驚くイザベラ。シャーロットは首を傾げた。
「イザベラさんもご存知でしたか。ローザさんは冒険者としても有名ですよね。わりと閉鎖的な都市なので、古の都市から外に出たローザさんは変わり者だと言われていました。とは言うものの、私が古の都市に移り住んだときにはもうローザさんはおりませんでしたので、彼女と直接お会いしたことはありません」
「そう、なのね...」
魔道士繋がりということだろうか。案外世間は狭いのだなとしみじみ思う。
「ねえ、私もいつかそこへ行ってみたいわ」
「いいですね、ぜひ行きましょう。ランク上げにも最適ですよ」
「そうなの!?」
食い気味にイザベラが身を乗り出したので、シャーロットはティーカップを傾けながら上半身を引いた。
「魔道士にとってあらゆる意味で最適な都市なんです。行くとしてももう少し先になりそうですね、次の目的地は決まっていますから」
「そうね、花の都市...どんなところなのかしら」
次の目的地はアーノルドとその父から、花の都市がいいのでないかと勧められていた。どうやらそこは観光都市として有名な場所らしく、近々世界的に有名なコンテストが開催されるらしい。
そこでなら、イザベラたちの欲しい情報を手に入れることが出来るのではないかという話だった。
「たくさんの人が訪れると言いますから、見応えがありそうですね」
「ええ、楽しみだわ」
そろそろ純粋に観光を楽しみたいものだとイザベラはこの先待ち受ける出来事も知らず、この時は呑気にそう考えていたのだった。




