53 出航だ!
依頼の報告も済み、あっという間に旅立ちを迎えることになった。
アーノルドはあの後、きちんと父と話し合ったらしい。
彼の考えは甘いと言われ、かなりきつい叱責を受けたそうだが、一人の商人としてあるいは指導者として初めて父と意見を交わすことが出来たとアーノルドは満足げに笑っていた。
そして現在、イザベラたちはアーノルドの見送りを受けながら港から出航しようとしている。
アーノルドが流れるような仕草でイザベラの腰を抱き寄せる。
イザベラは呆れたように半眼になりつつ、近づきすぎないよう腕を突っぱねた。
「俺からのプレゼント受け取ってくれて嬉しいぜ」
「……まさかリアムが船を操縦できたなんてね」
なんとアーノルドは謝罪としてイザベラたちに豪華な船をプレゼントしてくれたのだ。
こんなの3人で操縦できるわけがないから要らないと言ったイザベラだったが、そこでまさかのリアムが自分が操縦出来ると言った。
この船は魔力で操縦できるらしい。
だから最悪一人ででも操縦出来るのだとか。イザベラもできるはずと言われたが、船なんてボートくらいにしか乗ったことのないイザベラができるはずもない。
出航してから、リアムに操縦方法を教えてもらう約束を取り付けた。
シャーロットもお金になりそうな技術だと目を輝かせていたので、そのうち全員が操縦出来るようになるだろう。
アーノルドがイザベラの腰を抱いたまま、ちらりとリアムへ視線を向ける。
「お前、魔法剣士だろ?それなのにこんなデケェ船を操縦できる魔力があるなんて、なあ…」
「造作もない」
つんとすましているリアム。なぜかここ数日リアムの機嫌がとても悪いのだ。無理やり船の操縦士に任命したからだろうか。
「ふうん…?」
アーノルドはしばらく物言いたげな眼をリアムへと向けていたが、反応がないのでイザベラに向き直った。
「……なに?」
「イザベラ、魔王を倒したら俺の元に戻ってこいよ。待っててやるから」
「はいはい、ありがとね」
イザベラはここ数日ですっかりアーノルドの扱いに慣れてしまった。アーノルドは苦笑しつつも気を害した様子はない。
「アーノルド、あなたの夢を応援してるわ」
「当然だ。お前がどこにいようとも、俺の名を耳にするくらい有名になってみせるさ」
「ええ、楽しみにしてるわね」
イザベラがにやりといたずらに笑ったかと思うと、突っぱねていた腕を解き、アーノルドの首裏へと腕を回して抱きついた。
アーノルドは驚いたように瞬時固まったものの、イザベラの意図を汲んで彼女の腰を抱き返す。
二人は抱擁をしてから離れた。
ちなみに、アーノルドはイザベラを離してからシャーロットを抱きしめようとしたが、容赦無く断られていた。
その一連の様子をリアムは黙って見ていた。表情が一切変わらないため彼の思考は不明である。
こうして、イザベラたちは貿易都市を去り、次の都市に向けて船を出したのであった。




