52 神秘のネックレス
「第3ステージクリア、おめでとうございます!」
真っ青な空がどこまでも広がっている不思議な空間に、一定の間隔を開けて並んだ3つの扉。
それから、白い衣を纏った一人の女性。
イザベラがここにくるのは4度目である。
「これから貴女には3つの選択肢が与えられます。1つ目はストーリーを続けること。2つ目は元の世界に帰ること。3つ目はクリアしたキャラと共にその後の人生を共に歩むこと。貴女はどの道を選びますか?」
イザベラと女神の間には既に長机に乗った抽選機が置いてあった。
それなら話は早い。
イザベラはすっと息を吸い込み深呼吸をしてから、口を開いた。
「私は、ストーリーを続ける道を選びます」
「畏まりました。それではクリア特典のSSR確定ガチャをどうぞ1回お引き下さい」
「はい」
慣れた様子で抽選器のレバーを回す。予想通り虹色の玉が一つ飛び出て眩い光を放った。
そして光が消えた場所には、シルバーベースでイザベラと同じ瞳の色をしたおそらくサファイヤが中央に鎮座しているゴージャスなネックレスであった。
「アクセサリー?」
「おめでとうございます!こちらは神秘のネックレスですね」
「神秘の…」
「ええ、このネックレスは身につけている者の体力・魔力を自動で回復し続けてくれるものです。ネックレスの回復量は使用者のレベルに応じて変わります」
「それはまた…チートですね」
「ええ、チートです」
にっこりと微笑む女神。どうやら会わない間にチートという言葉を覚えてくれたようだ。
「なるほど…すごく助かるわ」
いつも範囲魔法を連発して魔力切れを起こしているイザベラにとって実にありがたいアイテムである。
ローザの元で修行したとはいえ、やはり複数を相手にするには範囲魔法に限る。
光のレイピアといい、ここ2回はかなりの当たりだと思っていいだろう。
(私別にくじ運とかいい方じゃないんだけどな…なにか反動があったりとかしないわよね?)
それなりに数々の痛い目に遭ってきたイザベラである。安易に心から喜ぶことはできなかった。
(というか私まだ魔王に出会えてないし、むしろ情報すら全くってところなのよね)
以前王都で読んだ歴史書の中身はやはり古いものであった。そしてそこには確かに魔王のことが記されていた。
かつてこの世界を恐怖に陥れた魔王。
人だけでなくモンスターですら彼を恐れ、その絶対的な力から遠ざかろうと命ある者たちは全て、彼の住む城からなるべく遠いところを目指して逃げていった。
魔王は再び世界を支配下に置くかと思われたが、彼はなぜか数人の臣下だけを自分の元に置き、城から出ることはなかった。
そこから数百年。魔王の城周辺は滅びの都市と名付けられ、そこには恐ろしさのあまり誰も近付けないままでいるという。
そして魔王は未だ城に篭ったまま…らしいが、それを確認した者はいない。
(そんな魔王にどうやって会いに行けばいいっていうんだか。恋も何もあったもんじゃないわよ)
まあ、自分をここに招待した女神が魔王はいると言うのだから、いるのだろう。
城内で大人しくしているかどうかは別として。
イザベラが胡乱げに女神へ視線を向けると、女神は満面の笑みをイザベラに返した。




