50 捕縛!それから
突然姿を表し雷を放ったイザベラに男たちは動きが遅れた。
その隙に容赦なくイザベラは雷を叩き落としていく。
今日は位置からいってもアーノルドに雷が落ちるおそれはない。
その上、そもそもイザベラは範囲魔法が得意なのだ。加えて武器は光魔法の効果倍増であり、もはや負ける気がしない。
誤算だったのは男たちの数が予想より多く、突然の雷鳴に驚いて駆け付けてきた人数を合わせて、合計20人ほど居たことだろうか。
彼らが纏まって棒立ちでいてくれるはずもなく、範囲魔法が上手く決まらない。
ごり押すには数が多すぎて、イザベラの魔力が先に尽きてしまいそうだった。
アーノルドは元々戦闘員ではないため、戦力としてあてにならないし、むしろ彼を庇いながら戦うのにさらに苦戦を強いられることになった。
(やっぱりもうちょっと考えてから出てくるべきだったわね)
近付く男たちを眠り魔法でコーティングしたレイピアを振るい戦闘不能状態にしながらも、イザベラは少しずつ戦況が悪化していることを察していた。
何か別の策を...とイザベラが後退ったそのとき、イザベラの雷に混ざって一筋の黒い雷がピシャリと落ちた。
(え?私の魔法じゃない...誰っ?)
イザベラが驚いていると、入口側から男たちの呻き声が聞こえ、程なくしてリアムとシャーロットの姿が見えた。
リアムはそれこそ稲妻のような素早さで襲い来る男たちを次々と倒していく。
その後ろでシャーロットが黙々と倒された男たちを束縛して回っているので、どうやら彼らの息の根を止めているわけではなさそうだ。
イザベラはほっと胸を撫で下ろした、その途端全身を疲労感が襲う。
ぐらりと傾いたイザベラの身体を抱き留めたのは、リアムだった。
「.....っ、リアム...!」
「本当にお前は目を離すとすぐに無茶をする。...後は俺に任せてゆっくり休め」
ふっと間近で微笑まれ、イザベラの胸が高鳴った。何も言えずに頷いたイザベラに、リアムは頷きを返してから、イザベラをその場に座らせると再び戦闘に戻ってゆく。
イザベラはその様子をぼんやり眺めていたのだが、改めて見てもリアムは凄まじい強さであった。
殺すよりも気絶させる方が力加減が難しいというのに、リアムはそれすらも難なくやってのけてみせる。
それはもう見惚れるほどに洗練された動きであった。
イザベラがはっと我に返ったときには、リアムとシャーロット以外に立っている人物はなく、全員が縛られ転がされている状態であった。
リアムが気だるげに剣を収めて、イザベラとアーノルドの方へとやって来る。
アーノルドは今日は逃げなかった。そして何を考えているのか黙って俯いていた。
二人の傍までやってきたリアムが口を開いた。
「お前は、コイツらの仲間なのか?」
その言葉にイザベラは顔を上げ、慌ててアーノルドを庇うように手を広げた。
「待ってリアム!彼は違うの!」
リアムはイザベラの態度に眉を顰める。一方アーノルドは驚いたように目を見開いたまま固まっていた。
「けどそいつは昨日もこいつらと一緒に居ただろう?」
「えっ?なんで知って...」
「気配で分かる」
ばっさりとリアムに切り捨てられてしまい、イザベラはなんと言い訳したものかと頭を悩ませた。
すると、イザベラの背後からアーノルドが立ち上がり、リアムとの間に割って入った。
「アーノルド...!」
「ありがとな、イザベラ。お前の言う通り、俺はコイツらの仲間だ。一緒に捕まるよ」
そう言いながら自ら両手を差し出すアーノルド。
リアムは訝しげにアーノルドを見たものの、イザベラに目を落とした。
「本人がこう言っているが」
「.....分かった、少し私と話させて?」
がっくりと肩を落としながらもイザベラが言うと、リアムが頷いた。
「分かった、30分待とう」




