5 冒険者になりました
「黒魔道士…ですか」
イザベラの隣から困惑気味な父の声が聞こえてきた。
「なんじゃ不満か?」
「いえ…私と妻のどちらかに似た職業だと思い込んでいたものですから、驚きました」
「ふむ…お主らは確か、ソードマスターと白魔道士だったか。どちらもこやつの師範には向かぬの」
「そうですね…困ったなあ…」
(えっ、両親ってどちらも冒険者だったのか。しかもソードマスターって!脳筋職じゃん!どちらもぽわぽわした感じなのに…私もソードマスターが良かったなーソロ楽そうだし)
イザベラがあれこれ考えてる間に、父は納得したように首肯して立ち上がった。
「よし、師範のことは私に任せなさい。」
「え?ええ、ありがとうございます」
「じゃあ次に、冒険者登録を済ませようか」
「はい…!あの、占って頂き、ありがとうございました」
「礼には及ばぬ。わしもなかなか興味深いものを見せてもろうた」
老婆の言葉にドキリとイザベラの鼓動が跳ねた。プレイヤーとしての何かも見られたということだろうか。
女神からは誰かにプレイヤーとバレてはいけないと言われているわけではないので、ペナルティを科せられることはないだろうが、この先迂闊に行動するのは辞めようと心に刻む。
曖昧に微笑みを向けてから、父に従い受付カウンターへと移動した。
受付らしき女性の前に、二人並んで座る。
「おはようございます。本日はどのようなご要件でしょうか?」
「娘が20歳になったので、冒険者登録を行いたいのです」
(私20歳になったばかりだったのか!)
またしても衝撃の事実発覚である。てっきりもう少し年齢が上だと思っていた…やけに大人っぽい風貌だなあと今朝方見た自身の姿を思い浮かべる。
「かしこまりました。それではこちらの用紙に必要事項のご記入をお願いします」
受付嬢が申請用紙らしきものとペンをこちらに差し出す。
冒険者登録届と書かれた用紙に、分かる範囲で記載していく。
項目としては非常にシンプルで、名前と職業、それから保証人の欄くらいしかなかった。
すぐに書き終え、受付嬢に渡すと申請用紙を確認してから「少々お待ちください」と告げられる。
父と共に待合スペースらしきソファで寛いでいると、それほど待たされることなく名を呼ばれた。
「お待たせ致しました。不備がないかのご確認をお願いします。」
そう言って差し出されたのは、金属製のカードであった。非常にシンプルな作りになっており、イザベラの記入した項目に加えて、ランクそれからクエストと書かれた欄くらいしかない。
ちなみにランクはEとなっており、クエスト欄は空白であった。
「それでは簡単にご説明致しますね。冒険者ランクは皆様Eランクから始まり、クエストの達成度合いに応じてランクがアップしていく仕組みとなっております。クエストはギルド協会にある掲示板から受注して下さい。受注したクエストはカードのクエスト欄に記載され、クリアすると進行中からクリアという記載に変わりますので、クリアになった段階でカードをギルド協会にお持ちください。同時に受けられるクエスト数はランクにより変動致します。Eランクですと同時に3つまでとなります。途中でクエストを辞めることも可能ですが、その場合の手続きもギルド協会で行います。……何かご質問はありますか?」
「クエストはソロで行うのですか?」
「種類によりますが、パーティで受注することも可能です。その場合皆様それぞれ手続きが必要になりますので、受付は個別に行なって頂くことになります。」
「なるほど…」
そのパーティとやらをどうやって組めばいいのか分からなかったが、これは冒険者である父か母に聞くことにしようと、父を一瞥する。
父は特に言うことはないのか、にこやかに頷くだけであった。
「その他大丈夫でしょうか?もし何かございましたら、またいつでもお声掛けください」
「はい、ありがとうございました」
カードを手に取り、礼を言って立ち上がった。
これで私も晴れて冒険者だ!と何だか誇らしげな気持ちになったが、……これって恋愛ゲームですよね?と誰かに問いたくて堪らなかった。