49 大富豪の決心
翌日、囮手段が使えなくなってしまったイザベラたちは手分けして手掛かりを持っているであろうアーノルドを探し回っていた。
「全く…手が焼ける男だわ」
昨日の取引場にも足を運んでみたのだが、そこはすっかりもぬけの殻であった。どうやって移動させたのかは知らないが、一人や二人でどうにか出来る量ではなかったはずだから、それなりの人数が関わっているのだろう。
もはやイザベラたちの手に負える規模の問題ではなさそうである。
他に彼らが潜伏してそうな場所に心当たりもなく、どうしたものかとイザベラが空になった倉庫で思案していると、ふと複数の人物が話しながらこちらへ歩いてくる気配を感じた。
咄嗟に隠れたイザベラの近くまでやってきた人たちは、まさしく昨日の売人たちである。
男たちの中に一人引きずられるようにして運ばれてくる者がいた。
(もしかして…)
イザベラが息を殺して彼らを見守っていると、男たちはイザベラの傍で足を止めて掴んでいた男を放り投げるように手を離した。
投げられた男は受け身も取れず、地面に尻餅をつく。
そしてその拍子に男のフードが取れた。やはり男の正体はアーノルドであった。
(一体今度は何をやらかしたのよ...!)
イザベラはすぐにでも出ていってやりたかったが、考えもなしに出ていけばまた彼らに逃げられてしまうおそれがあった。さすがに三度目のチャンスを期待するのは難しいだろう。
ここは耐えて様子を伺う方がいいと判断し、イザベラはしばらく彼らのやり取りを見守ることにした。
どうやらアーノルドはあの後仲間割れしてしまったようだ。
まあイザベラに商品を売るなと言ったのだから、そうなっても何らおかしくはない。
ただそのせいでひどい目に遭わされているのだとしたら、イザベラにも責任があるのでは...と考えたところで、いや元から危ない薬を売ってる方が悪くないか?という結論に思い至り、イザベラは幾分か冷静さを取り戻した。
「お前...今更辞めたいなんて、調子のいいこと言ってんじゃねえよ!」
「これだから責任って言葉も知らねえボンボンはよお...、誰だよこんなやつ仲間に引き入れたの」
男たちから責め立てられるアーノルド。どうやら話を聞く限り、彼はあの後売人を辞めたいと彼らに言ったようだ。
(ふうん...?色々と思うところがあったのかしらね)
イザベラには逆ギレして逃走を図ったものの、辞めようという結論に至ったのなら、喜ばしいことである。
彼の行為がそれで帳消しになるわけではないが、少なくとも良い方向に進んだと捉えていいだろう。
(反省したってなら、許してあげなきゃね)
これ以上見ていても、アーノルドが彼らに暴行を受けるだけだろうと判断したイザベラはレイピアを手にアーノルドの前へと飛び出した。




