45 揉め事
突然すぎる出来事に驚いていた男たちであったが、自分たちが悪し様に言われたこと。さらにその人物がアーノルドの女だと分かると、次第に怒りを顕にした。
そして一人がイザベラの前に出る。
「盗み聞きしといて、ダメ出しするたあ礼儀のなってねえ嬢ちゃんだな。道楽息子にお似合いだぜ」
あからさまな挑発である。
しかしながらイザベラも相当な怒りを溜めていたのだ。ここですぐに引き下がるわけがなかった。
「その道楽息子って呼ぶのやめなさいよ!いい大人が情けないにも程があるわ。いい?アーノルドはね、貴方たちよりもよっぽどこの街のことを考えてるわよ!貴方たちかアーノルドの何を知ってるのか知らないけど、それは彼を悪く言っていい理由にはならないわ」
イザベラの言葉に、男がハッと唇を歪ませた。
そして下卑た笑みを浮かべる。
「なんだ嬢ちゃん。自分の男のことを悪く言われたのが気に障ったのか。いやあお熱いことで」
「いいねえ若いってのは」
あからさまな揶揄にイザベラの顔が怒りに染まる。
男たちを少しは痛い目に遭わせるかとイザベラが忍ばせておいた杖に手をかけたところだった。
突如イザベラの肩を背後から誰かが掴んだ。それによりイザベラの魔法が遮られる。
イザベラの肩を引いて彼女を庇うように前に出てきた男の正体は、アーノルドであった。
「随分盛り上がってるじゃねーか、俺も仲間に入れてくれよ」
「アーノルド!?」
ぎょっとイザベラが目を見張る。一体いつから聞かれていたのだろう。
男たちはさすがにアーノルド相手に直接やり合うつもりはないようで、気まずそうに顔を見合わせてからへらりと笑いかけていた。
「これはこれはアーノルド様、ご機嫌麗しゅう。新しい奥方は随分と好戦的なお方なのですね」
「まだ妻じゃねーよ、口説いてるところだ。勝気で俺想いのいい女だろう?」
嫌味に対してもニヤニヤと愉しげに返すアーノルド。これは一部始終見ていたなと察し遠い目になるイザベラ。
男たちは自分たちの分が悪いと気付いたのか、適当な理由を告げてその場を去っていった。
その背中を見送ってからアーノルドがイザベラの方に振り返る。
「さて、俺を庇ってくれる気持ちはありがてーが、あまり危ないことばっかするなよ?」
イザベラはその言葉を素直に受け止め俯く。内心少し悪く言われただけでカッとなってしまったことを反省していた。
アーノルドは日頃からそれ以上に言われているに違いない。それなのにそれを感情に出すことなく、平然と男たちを追い払ったのだ。
自分と比べてなんと大人なのだろう。
しゅんと落ち込むイザベラの頭をアーノルドが乱暴にくしゃりと撫ぜた。
顔を上げるイザベラに、アーノルドが満面の笑みを見せる。
「でも、ありがとな。俺のために怒ってくれたんだろ?嬉しかったぜ」
スカッとしたな!とからりと笑う彼に、イザベラは込み上げる涙を堪えて一緒に笑った。




