44 許せない
翌日、またもや午前中でその日の販売予定分を売り切ってしまったイザベラは、何か少しでもアーノルドの助けになれないかと市場をぶらぶらしていた。
(アーノルドはやっぱりどう考えても道楽息子と呼ばれるような人じゃないわ、それなのにどうしてあんなに評判が悪いのかしら)
昨日アーノルドに理由を聞こうとしたのだが、のらりくらりとかわされてしまった。
本人にどうして街の人から嫌われているのかと問い質すのも酷である。
そのため、結局イザベラは理由を知らないままであった。
(まあアーノルドの考えが皆に浸透していないだけなのかもしれないわ、彼のことを知ればきっとみんな彼のことを尊敬し直すでしょう)
イザベラはアーノルドも住人たちもそこまでバカではないと思っている。きっと何か彼らがすれ違うきっかけとなる出来事でもあったのだろう。
そういう問題は、大体が時間の経過によって解決するものなのだ。
それよりも、今はアーノルドの夢を手助けする方が、イザベラに必要とされていることだろう、と勝手に解釈する。
しばらくあてもなく歩いていると、アーノルドの話を誰かがしていることに気付いた。
ちらりと覗いてみると、昨日とは別の者たちだ。
壮年男性が三人、仕事の愚痴を言いながらアーノルドのことを悪し様に言い合っていた。
(ちょっ、また...!?有名人も大変ね)
イザベラは、アーノルドの悪く言われる理由を知る手がかりになるかもと耳をそばだてる。
「アーノルド様が昨日も街をぶらぶらしてたんだってよ、しかも女連れだったらしいぜ」
(!?私のことじゃない...!)
心当たりのありすぎる噂話だった。なんと昨日の出来事が彼のイメージダウンに繋がってしまったとは。さすがに良心が痛む。
彼らにバレないようにイザベラは息を押し殺した。
「ああ、あのすげー美人だろ?確か屋台で魔法薬売ってる子じゃないか?アーノルド様の新しい女なのかね」
「やけに繁盛してるようだが...なるほどね、そんなバックがあるなら売れて当然だ」
(はあ!?何よそれ!私の店が繁盛したのは私がアーノルドの女だからって言いたいわけ?)
すぐにでも飛び出して行って全て燃やし尽くしてやろうと思ったが、何とか思い留まった。
「アーノルド様の女遊びもついにそこまで達したか...神聖なる商売を汚されたとなりゃさすがに黙ってられねえよな」
「ほんとにな、愛人のお遊び場にされちゃ真剣に商売やってるこっちは堪らねえぜ」
「だったら、貴方たちもその残念な頭を人を貶すためばかりでなく、商売のために使ったらどうなの?」
ついに耐え切れなくなったイザベラが、男たちの前に飛び出して、つんと澄ました表情で高らかに告げた。
突然のイザベラの登場に、男たちは皆ぽかんと口を開いている。




