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42 勝敗の行方

「勝負って…なに勝手なことをやってるんだ!」

「イザベラさん…短い間でしたが、共に冒険ができて楽しかったです」


その日の夜、イザベラはアーノルドとの賭けの話をリアムとシャーロットにしていた。

二人の反応は、まあ予想通りだ。


「ちょっと貴方たち好き勝手言ってくれるじゃない。勝算がないってわけじゃないのよ?まあ見てなさい」


にやりと悪い笑顔を浮かべるイザベラ。

市場調査の結果を見せるときがきたようだ。一週間という縛りが最も厳しいところなのだが、そこは二人にも協力を願ってなんとか頑張るほかない。

こうして、イザベラの戦いの幕が上がった。



一週間後、アーノルドがイザベラの屋台を訪れると、人の姿は一人も見られなかった。

やはりダメだったかと嬉しいような悲しいような複雑な思いでアーノルドは屋台を覗く。

するとそこにはイザベラの姿があった。

イザベラはこちらを見ようともせず、声を掛けてきた。


「ああ、ごめんなさい。悪いけど今日の分はもう売り切れなの。明日また来てくれるかしら…あら?」


そこでようやく来訪者がアーノルドであることに気づいたらしく、目を丸くする。


「そういえば今日で一週間だったわね」

「俺のハレムへ入る準備はもう整ったのか?」

「なに言ってるの?見てわからない?」

「客は一人もいないじゃないか」

「まあ、そうね。さっき言ったでしょ、今日の分はもう売り切れちゃったの。既に店じまいよ、来るのが遅いわ」

「まさか…まだ昼間だぜ?そうやって結果を誤魔化そうってのか?」

「そんなせこいことしないわよ!…もう、じゃあ特別に明日売る分の在庫を見せてあげるわ」


イザベラが嘆息し、裏でごそごそと何かを探ってから数枚の紙をアーノルドの前に並べる。


「これは?」

「魔法薬よ」

「この…紙が、か?」


アーノルドが訝しげに眉を寄せる。そして手にとって眺めてみた。どこからどう見ても細長い紙である。何か文字が書かれているようだが、この文字は一体…模様だろうか。


「そうよ。正確には呪符と言った方がいいのかもしれないけど…この紙を破ると魔法薬としての効果が現れるわ。誰でも使用できるし、効果の発動した紙は消えてなくなる。どうかしら?」

「瓶で売っていた魔法薬を、紙媒体に変更したということか?けど、効果は瓶のときと同じなんだろう?」

「ええ、そうよ。元から品質の良さが売りだったんですもの」


イザベラが肩を竦めてみせた。彼女なりに説明してくれたようなのだが、アーノルドにはさっぱりである。

そんなアーノルドに気付いたのか、イザベラが続けて口を開いた。


「いい?この都市で最も買い物する人は商人。そして彼らは買った商品を自分たちで使用するわけではない。基本的には自身の街へ帰って販売するの。私の魔法薬が売れなかった理由は、瓶が嵩張ること、さらに持ち運ぶ際に割れる危険性があること、値段が高くないこと、あとは…似たようなものがどこでも買えること。ざっとこんなところかしら。私がやったのはその欠点を解消したに過ぎないわ。魔法薬を呪符にすることによって、持ち運びやすく、どこにも売っていないから珍しさを武器に彼らがより高い価格で売れるようにしたってわけ」

「なるほど。…だが、なぜ在庫があるのにもう今日は店じまいにしたんだ?売ろうと思えばもっと売れるということなんだろう?」

「そこはあえて数量限定にしているのよ。1日売るのは100枚限定。流通量が少ない方が希少性も上がる。そもそも私たちは稼ぎに来てるわけじゃないから…そこまで売上を気にしなくていいってのもあるけどね」


アーノルドは絶句した。まさかイザベラが一週間でここまでの成果を出すとは思ってもみなかった。精々客数を二桁に出来るかどうかくらいにしか考えていなかった。

自分の予想をはるかに上回る彼女の商才に、アーノルドは舌を巻いた。


「こりゃあ…大したもんだ。俺の完敗だな、お前の勝ちだ。イザベラ」


アーノルドはなぜか自身の勝利を確信していた先ほどよりも、負けを認めた今の方が気分がよかった。

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