40 噂のあの人
商売が上手くいかない理由を探るべく、本日イザベラはシャーロットに店を任せて一人で街を散策することにした。ちなみにリアムは薬草摘みに出掛けている。
今日は珍しく3人ともが単独行動している日である。
街はやはり相変わらず栄えており、至るところに商人の姿を見かける。彼らは屋台主と値段交渉を行ったりしているようで、話し込んでいる姿をよく見かけた。
(よく見てみると、一般人よりも商人の数の方が多いのよね…)
商人たちはここで買い付けた後、それぞれの街に持ち帰り、名産品として販売するのだろうか。
イザベラの商売のヒントになりそうだと観察しながら歩いていると、聞き覚えのある名前をイザベラの耳が拾った。
会話しているのは屋台主とこの都市の者らしい人物である。
イザベラは彼らに怪しまれない位置にそっと身を置いて耳を澄ませた。
「聞いたか?アーノルド様がまた…」
「ああ、本当に道楽息子って言葉がぴったりだよな」
「代替わりなんてした日にゃこの街は一体どうなっちまうんだろうなあ」
「ここじゃあ国王よりも地主様のお力の方が大きいからなあ」
「アーノルド様に代わったらこの街を出てくってやつも多いみたいだぜ」
「なるほどねえ、俺も真面目に考えるとするか…」
(えっ?アーノルドってそんなに評判悪いの?)
聞こえてきた会話は始終アーノルドの悪口であった。イザベラとしてはアーノルドにそこまで無能の印象はなかったので、純粋に驚いた。
何せイザベラたちが商売を始めることに対して許可を出し父に話をつけてくれ、さらにはイザベラが商売を行う前に魔法薬の店は売れないと当ててみせたのだ。
確かに女癖は悪そうであるが、仕事面に関してはむしろ有能そうに思えのだが。
(買い被り過ぎただけかしら。でも…あの悪口も単なる彼らの思い込みかもしれないし。理由がわからない以上、決めつけは良くないわね)
道楽息子と称されるくらいなのだから、仕事をせずに遊びまわっているということだろうか。
だとすると、彼を見つけるのは厄介かもしれない。売れない理由を探るとともに、彼ともお近づきになっておきたかったのだが。
イザベラが立ったまま思案していると、目の前を一人の人物が横切った。
(え…?)
地味な服装をしているが、一目で分かった。アーノルドだ。
(どうして彼がこんなところに…!?)
今まさにイザベラが会いたいと思っていた人物だ。こちらを一瞥することもなく歩いてゆくアーノルドの背中を、迷った末追いかけることにした。




