4 職業決まりました
イザベラは父と二人並んで町を歩いていた。
町と言うよりは村と言った方が近いであろうそこは、自然に囲まれていて、店よりも住居の数が多い。
店舗と住居を兼ねている建物も多いようだ。
建物同士は離れて建っており、住人数はあまり多くなさそうである。
イザベラの予想通り、イザベラ家は一般家庭レベルの暮らしをしているようだが、どうやって生計を立てているかはまだ不明である。
(田舎スタートか…まああるある…かな?でも…こんな田舎じゃ攻略対象者とはまだ出会えそうにないかあ)
世界観に惹き込まれそうになっていたが、そういえば自分は恋愛ゲームをプレイ中なのである。
そのわりには、先程から見掛ける住人の中にもそれらしき人物はいなかった。
(もしかして冒険に出てからがスタートってこと?まだチュートリアル中みたいな?というか、攻略対象者かってどうやったら分かるの…!?)
肝心なことを聞きそびれていたことに今更ながら気付き、イザベラの顔がさっと青ざめた。
てっきりキャラクターたちの好感度とかが謎ウィンドウで見られるものとばかり思っていたのだが、どうやっても謎ウィンドウ的なものが現れる気配はない。
「セーブ!」
「イザベラ?どうかしたのかい?」
「えっ!……いえ、お父様と出掛けるのが嬉しくて…つい…弾けてしまいましたわ」
「そう…なのか?」
なんということだ。ひとまずセーブだけでもしておくかと思い、女神から教わった呪文を唱えてみたら、思いきり父に不審な目で見られてしまった。最悪だ。しかもセーブ出来たかどうかも分からない。これ全部夢とかじゃないよね?私ゲーム出来てますか?自分がただの妄想癖ヤバめの女でないことを願いたい。
若干現実逃避していたイザベラの前を歩いていた父の足がある建物の前で止まった。
「さあ、着いたよ」
その建物には『ギルド協会』という看板が掛かっていた。
ちなみに文字は問題なく読めた。文字の勉強から始めてたらもう恋愛どころじゃなかったので助かる。
父は迷いない足取りでさっさと協会内へと入ってしまった。イザベラも慌てて後を追い中へと足を踏み入れる。
(カウンターが2つ…あれは受付?あとはクエストが貼ってありそうな掲示板…それから…占い師?)
室内はこじんまりとした市役所のような造りになっており、受付らしきカウンターには一人の女性が座っていた。
あとは数人が壁にかかっている掲示板を見ているくらいだ。
父はというと、カウンターの一番隅にある老婆のところへと向かい、その前に腰を下ろした。
老婆の前には水晶が置いてあるので、占い師か?と検討をつける。しかし、ギルド協会に占い師のいる理由はよく分からない。
イザベラも父の後に続いた。老婆の前にはカウンター越しに2つ椅子が並んでおり、父がそのひとつに腰を下ろしたので、空いている方の椅子に腰を下ろす。
おそるおそる老婆に目をやると、黒いローブのフードの隙間から思いがけず強い眼差しが返ってきた。
反射的にびくりと肩が跳ね、隣を父を見る。父はにこやかにこちらを眺めていた。
「やあ、今日は娘の天職を視て欲しいんだ」
「……ふむ。水晶に手をかざすのじゃ」
「は、はい!」
なんだかよく分からないが、もしかするとこの世界は職業選択の自由がなく、今日のこの占いで決まる感じなのだろうか。
イザベラは職業に対してこだわりはなかったので、言われるがままに水晶の上に右手をかざした。
少し待つと水晶にもやがかかる。
(何の職業が有利なんだろう…ヒーラー系なら恋愛フラグとか立てやすそうではあるけどソロがつらそうだしなあ。時間は掛かっても剣士とか物理職がいいかも)
「天職は、黒魔道士」
あれこれ妄想を膨らませる間もなく、老婆から告げられた職業
それは黒魔道士であった。
「黒魔道士…」
(ということは、攻撃系魔法職?HPや防御力低そうだからソロはつらそうだし、恋愛フラグも立てづら!というか、ライバル感増してない!?)
イザベラの頭の中で様々な言葉が飛び交っていたのだが、彼女の美しい相貌は人形のように固まったままであった。