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39 どうして売れないの?

それから毎日イザベラは屋台の準備と魔法薬作りに追われることとなった。

もし商売をスタートさせれば、さらに忙しくなることが予想された…のだが


「どういうこと?」


イザベラは屋台で一人苛立ちを隠せずにいた。

屋台通りはそれなりに賑わっているというのに、イザベラの店にだけ一人も客が来ないのだ。

場所が悪いわけではない。現に周囲の店はそれなりに賑わっている。

イザベラは予想と異なり、全く売れないこの状況を受け入れられずにいた。

(どうして?何が悪いの?)


オープンして数日は良かった。少ないながらも新店舗ということもあり、興味本位で声を掛けてくる者がそれなりに居たのだ。きっとこのまま上手く軌道に乗せられる、そう思っていたのだ。

しかし、実際は徐々に客足は減ってゆき、今では常に閑古鳥が鳴いている状態である。

(他に魔法薬を売っているお店なんてなかったわ。つまりライバルはいないというのに…おかしい)


そこでふとイザベラはアーノルドの言葉を思い出した。

彼はイザベラが店を始めたいという話をしたとき「なぜこの街にそのような店がないのかまでは考えなかったのか?」と言ったのだ。

それは一体、どういう意味だったのだろう…。

(あの言葉の意味さえ分かれば、どうして売れないのかが分かるはずだわ)

イザベラの眉根がぐっと寄せられた。

アーノルドとはあの後一度も会っていない。彼のことだから一度くらい顔を見せにくるかと期待していたのだが、誤算であった。俺のハレムにと誘われたものの、あれは誰に対しても言う挨拶みたいなもので、イザベラたちのことはもう既に興味を失ったのだろう。

(でも流石にハレムに入るのは違う気がするのよね…)

そちらもなかなか先が見えなかった。


またイザベラがストレスを感じている原因はもう一つあった。リアムとシャーロットである。

彼らはイザベラの言った通り、囮役を全うすべく毎日薬草を摘みに行き、街を散策してくれていた。

それはそれは仲睦まじく…というのはいささかイザベラのフィルターが掛かっているかもしれないが。

彼らが親しげに話している姿を目にするたびに、イザベラは自分の中に生まれるもやもやとした感情を持て余していた。

(どうしてこんな気持ちになるんだろう…自分だけ仲間はずれにされているみたいだから…?)

しかしながら自分でそうするように指示したのだ。誰も悪くないため、この気持ちを誰にも話すことが出来なかった。


そのもやもやを発散させるために、イザベラはリアムに毎朝剣術の特訓を行って貰っていた。

イザベラの剣は細いため、リアムの扱う剣と勝手が異なるのに加えて彼は天才タイプらしく、教えるのは差程上手くなかったが、彼から剣術を学んでいるときだけは、なぜか心が落ち着いた。

(もしかして私って、わりと剣の才能もあるんじゃない?)


イザベラがこの感情に気付くまでにはまだまだ時間を要しそうである。

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