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38 囮大作戦

かくして、無事商売を行うための屋台を手に入れることの出来たイザベラたちであったが、その代償は高くついた。

屋台の準備を行いながら、イザベラは何度目かの溜息をつく。


「はあ…信じられない。あんな安請け合いするなんて」


リアムが屋台を掃除しながら眉根を顰めた。


「結果として受けたのはお前だろう。人の責任にするな」

「だって!あんなにも堂々と言うから!少しくらい情報を持ってるのかと思うじゃない!まさか全く何も知らないのに引き受けただなんて、思いもしなかったわ!」

「だから、今から情報収集に行くと言ってるじゃないか」

「ダメに決まってるでしょ!私たちが探ってるなんてバレたら永遠に捕まえられないわよ」

「じゃあどうすればいいんだ」

「……仕方ない。貴方には囮役として街を回ってもらうわ。ただし不安だからシャーロットも連れてね」

「囮役…?」

「そう、いかにも冒険者ですって顔をして街を回るの。そして魔力増幅薬の売人に声を掛けられたら取引場までついて行く。現行犯として捕まえなきゃ逃げられるおそれがあるから…出来る?」

「俺は冒険者だ」

「分かってるわよ!演技が下手そうだから不安だって言ってるの。シャーロット、頼んだわよ」


イザベラが額に手を当てながら、シャーロットへ目をやった。

シャーロットはテーブルを布巾で拭きながら頷く。


「分かりました。お任せ下さい」

「そうだ、ついでに私たちが販売する魔法薬の材料も採ってきて頂戴。薬草10種類、よろしくね」

「それは街の外じゃないか!」

「売人が街の中にいるとは限らないでしょ?それに薬草摘んでる方が冒険者としての信ぴょう性が増すし」

「俺は冒険者だ」

「知ってるってば!…とにかく!暫くはその心積りで頼んだわよ。私も私でちゃんと空いた時間は囮として街を散策するから」


イザベラの言葉にリアムが怪訝に眉を上げた。


「お前は一人で行動するのか?」

「そうだけど?」

「危険じゃないか」

「平気よ」

「お前、俺と初めて会ったとき…」

「あー!もう!分かった!危ないところには行かないようにするから!」

「分かった。酒場などは俺たちが回ることにしよう。シャーロット、構わないか?」

「はい、私はどこでも構いません」


リアムとシャーロットが顔を合わせて頷き合う。その様子を見ていたイザベラの胸がざわついた。…が、彼女はその違和感がもたらす感情に気が付かなかった。


「じゃあ、さっそく今日から始めましょう。囮大作戦よ!」


イザベラが高らかに宣言し、それが慌ただしい毎日の始まりの合図となった。

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