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37 商売始めました

数日後、アーノルドの使いに呼ばれて、イザベラはシャーロットとリアムを連れ、かの邸宅まで赴いていた。

今回は門番にもすんなりと通してもらえ、広々とした謁見室らしきところに案内される。


(本当にお城みたい…そういえば王都にいたのに王にはまだ会ってないわね。まあ気軽に会える相手じゃないけど)


部屋の奥、大蛇を象った装飾が施された玉座のような椅子に一人の男が腰かけているのが見えた。


(王様気取りってわけ?なんだか感じ悪いわね。あれがアーノルドの父親かしら)


イザベラは生理的な嫌悪感を抱いたが、これから彼に商売の許可を得なければならないのだ。いつまでもリアムのクエスト報酬に頼って生活するわけにもいかない。改めて気を引き締めることにした。

案内人が両脇に退いたところで、イザベラたちは男の方へと足を進める。


「アーノルドから話は聞いているよ、長らくお待たせして申し訳なかったね」

「……いえ、こちらこそ。不躾な要望を行ったにも関わらず、このような場を設けて頂き、心より感謝申し上げます」


アーノルドの父から意外にも親しみやすい口調で声を掛けられ、イザベラは拍子抜けしつつも、丁重な姿勢は崩さなかった。


「君たちはこの街で商売をしたいんだってね。もちろん構わないよ、すぐにでも場所を提供しよう。確か空いていた場所があったはずだ、問題なければその屋台をそのまま活用するといい」


思いがけない提案にイザベラは顔が強ばりそうになるのを何とか耐えた。

(こんな至れり尽くせりなことあるはずがない。きっとこの後何か相応の見返りを求められるはず。…昔からタダより怖いものはないって言うしね)


「願ってもないお申し出に心より感謝致します。しかしながら私たちは無一文に近い状態でして、…その、ご期待に応えられるかどうか…」

「はは!安心してくれ、君たちから場所代を取ろうなんて思っていないよ。…だが、代わりと言ってはなんだが、君たちに一つ頼みたいことがある」

(やっぱりー!!!)


どうやらお金をむしり取ろうというわけではないらしいが、頼み事となるとさらに厄介さが増すことは目に見えていた。

(でも…アーノルドとこの先仲を深めていくためにはここで断るわけにはいかないわよね…)


アーノルドはおそらく攻略対象者だ。現在はイザベラよりもシャーロットに対しての好感度の方が上かもしれないが、今後好感度を上げる機会を積極的に増やしていかなければならないことに変わりはない。

イザベラは腹を括ることにした。


「私どもに可能なことで御座いましたら、何なりと」


イザベラの答えに満足したように地主が笑みを深め、首を縦に振った。


「実は、ここ最近この都市で悪さを働く者がいてね。どうやら彼らは冒険者を狙って、あるものを売りつけているようなんだ」

「あるもの…ですか」

「そう、魔力増幅薬さ」

「増幅?回復ではなく?」


聞き慣れない言葉にイザベラがきょとんと目を丸くして確認する。地主はそれを頷きで返した。


「そう、その薬は飲んだ者の魔力を本人の限界以上に引き出してくれる効果があるらしい」

「えっ?そんなことって…」

「常識として考えられないだろう?私も詳しくは知らないのだが、とても危険な薬に違いない。その副作用として倒れる者も続出していると聞く。このまま放置しておけば、この都市の信用が失墜するだろう。そこでその売人を捕まえたいのだが、なかなか彼らもしっぽを出さなくてね」

「なるほど…」

(この都市の規模にしちゃ冒険者の数がやけに少ないと思ったわ…)


もしかすると冒険者のコミュニティでは周知の事実なのかもしれない。となるとギルド協会でクエストの依頼を受けていたリアムが情報を持っている可能性が高かった。

(後でリアムに聞いてみるか。それにしても予想よりも厄介な依頼だわ)

正攻法での捕獲が難しいということは、おそらくイザベラたちに囮になれと言っているのだ。

囮となるには、堂々と情報収集に励むわけにもいかないし、彼らの警戒心が高いことを考えると一度でもバレたら二度目はないと思っていいだろう。

(果たして受けるべきか…)

イザベラが思考を巡らせていると、背後からリアムが声を出した。


「分かった。その依頼、俺たちが引き受けよう」

「えっ?ちょ…!」

「困っている者を助けることも冒険者としてのあるべき姿だろう、違うか?」


あまりにも堂々と言われてしまうと、何も言い返せない。


「そ、それはそうだけど」

「それとも、お前はこの依頼に応える自信がないと言うのか?まだ何もしていないというのに?」

「それは…っ、分かったわよ!受けます!私たちが必ず解決してみせます!」

「助かるよ、ではすぐにでも屋台の手配を」


こうしてイザベラは最終的にリアムから煽られる形で、地主からの依頼を引き受けることとなったのだった。

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