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36 ふっおもしれー女

店主に言われた通りの道を進んでゆくと、確かに壁の高さこそ低いものの城と思わんばかりの巨大な建造物があった。

門前には門番らしき二人の男性が立っている。

イザベラたちが門の前まで行くと、案の定門番に止められてしまった。


「おい貴様ら、何用だ」

「地主様に会いに来たのです。私たちこの街で商売を始めたいと思っておりまして、その許可を頂きに参りました」

「貴様らのような小娘が商売だと?笑わせるな。会わせるまでもない、さっさと帰れ」


(えー、通してすら貰えないわけ?結構ガード固いな…)


イザベラは思わず苦笑する。ここで躓くのは少々予想外だ。何か策を考えね直さば、と思考を巡らせたところで、門番たちの顔色がさっと変わった。


(…?なに?)


「まあいいじゃねーか、話を聞くぐらい。なあ?」

「アーノルド様!」


緊迫した雰囲気を破るような陽気な声が背後から掛けられたかと思うと、褐色の肌をした背の高い男が、門番とイザベラの間に立つ。


「入れよ、俺が話を聞いてやる」

「そんなっ、勝手なことを…!」

「なんか文句あんのか?」

「いえ…」


(え、これ大丈夫?この人はこの家の人ってことかしら。地主にしては若過ぎるわよね。年は…23才ってとこ?)


改めてイザベラを庇ってくれた男のことをよく見てみる。褐色の肌に短い癖のある黒い髪、濃い緑の瞳が印象的なくっきりとした顔立ちの精悍な男だった。


(ん…?もしかして、攻略対象者…?)


ふとイザベラの頭にそんな考えが過ぎるも、アーノルドと呼ばれた男はさっさと中に入ってしまう。

彼の気が変わらないうちにとイザベラとシャーロットは急いで彼の後を追った。


アーノルドが案内してくれたのは、おそらく離れであった。そこでは門番たちと異なり、使用人たちが丁寧に応対してくれた。彼は慣れた様子で進んでゆき、開放感溢れる一室に案内される。彼の私室だろうか。

部屋に着くと、アーノルドは天蓋付きの大きなベッドに腰を下ろして、イザベラたちに目を向けた。


「今親父は留守にしててさ、俺が代わりに話を聞いてやるよ」

「……貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。私はイザベラと申します。こちらはシャーロット。私たちは本日この街に着いたばかりで、暫くの間この街に滞在させて頂こうと考えております。しかしながら手持ちが心許なく、短期間ではありますがこちらで商売をさせて頂き、この街に貢献しながら宿泊費用を得ようと考えておりました。この街で商売を行うにはこちらで許可を頂くことが必須条件であると耳にしたため、此度商売の許可を得るため参った次第です」

「ふうん…商売の内容は?」

「魔法薬の販売でございます。体力回復薬、魔力回復薬それに状態異常回復薬。いずれも高性能の薬であることを保証いたします。ざっと拝見しましたところ、この街にはそのような店がなかったため、お役に立てるかと思いまして」


イザベラの話を黙って聞いていたアーノルドの瞳が、愉快気ににやっと細められた。なんだろう?


「なぜこの街にそのような店がないのかまでは考えなかったのか?」

「えっ?…なにかこの街独自の法律で禁止されているとか、でしょうか」

「いや、何も禁止されちゃいねーさ。まあいいや、売るだけ売ってみな。俺が許可しよう」

「本当ですか!?」

「ああ、親父には俺の方が言っておいてやる。また改めて呼び出しがあると思うから、気長に待っててくれ。この街の宿屋は一つだけだ、お前たちはそこにいると思っていいか?」

「はい、ありがとうございます」

「……そんなことより」

「まだ何か?」


何となく嫌な予感のしたイザベラの顔が強ばった。反対にアーノルドは至極楽しそうである。


「お前、美人だな。俺のハレムに入らねーか?」

「……は?」


予想外すぎる展開にイザベラは思わず素の声が出た。


「……あの、私たちは旅の途中ですので」


見兼ねたシャーロットが間に入る。


「ふーん?そっちのお前もよく見りゃ可愛い顔してんじゃねーか。お前はどうだ?ハレムに興味あるか?」

「……おいくらほど頂けるのでしょうか」

「っぶ!金次第ってか?ふはっ、お前!…そんなこと俺に聞いてきたやつは初めてだぜ。…ふっ、おもしれー女」

「はあ、ありがとうございます」


(!!!?)


そのときイザベラに走った衝撃は凄まじいものだった。おそらく攻略対象者であろうアーノルドのこの発言。

まさに俺様キャラが主人公に興味を抱くきっかけとなる台詞ではないか!


(シャーロットに…フラグが立った…ですって…?)


前途多難を予感して、イザベラは絶句するのだった。


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