31 嘘つきは誰?
翌日、ビルが紹介してくれたシャーロットとギルド協会の会議室で面談が行われた。
リアムにも声を掛けたが、彼は興味ないと言って姿を現さなかった。
イザベラはシャーロットと机を挟んで向かい合い座っていた。
彼女は一言で言うと可愛かった。
全体的に華奢な体付きで、首までの真っ直ぐな髪の色はなんとピンク!大きな瞳は綺麗な緑色だ。
(なんというか、その…ヒロイン?)
白魔道士という職業も相まって、彼女はまさにイザベラの思い描く恋愛ゲームのヒロインそのものであった。
今彼女は長い睫毛を震わせながらその大きな瞳をぱちりと瞬いている。
「…ということで、私たちはいずれ魔王の攻略を考えています」
「はあ、そうですか」
(それにしてもなんだかこの子、反応薄いな)
じっとシャーロットを見つめているのだが、どことなく上の空の彼女は相槌も軽い。
「貴女からの要望は何かあるかしら?」
「お金です」
「え?」
「私、お金が欲しいんです。多ければ多いほどいいと思っています」
「…そ、そう」
「魔王を攻略するということは、その過程でも大金が手に入ると考えてよろしいでしょうか」
「…そうね、まあ…それなりに必要にはなるでしょうしね」
「分かりました。では私をパーティに参加させてください」
「えっ?」
「?…私の実力では難しいでしょうか?」
「い、いえ。そんなことないわ。とてもありがたいに決まってるじゃない。でも、そんな簡単に決めていいの?魔王よ?」
「ええ、構いません。どうぞよろしくお願いします。」
何と、即決であった。あんなにも苦労して探していた最も求める職業の者たちがついに揃ったのだ。
それからイザベラとシャーロットは細かな打ち合わせを行い、出発は一週間後にすることとなった。
シャーロットが先に出て行き、イザベラも部屋を出ようとしたところで、誰かの話し声が扉越しに聞こえ、ドアノブに掛けていた手を引っ込めた。
(この声は…!)
言い争っている男性二人。どちらにも聞き覚えがある。ビルとロビンだ。
「おいロビン。お前どういうつもりだ?」
「一体なにがだ?」
「イザベラちゃんのことだよ」
「彼女が何か?」
「今日俺は彼女にシャーロットちゃんを紹介した」
「……そうか」
「彼女、シャーロットちゃんのこと聞いたことないって言ってたぞ。白魔道士も希望してたんだろ?」
「そうだな」
「何でお前から紹介してやらなかった?」
「……それは…」
「やっぱりそうか。お前わざと彼女の希望に合いそうなやつを紹介してなかっただろ」
(!!?)
「そんなつもりは…」
「お前って仕事だけは熱心にやるやつだと思ってたけど、私情を挟むなんて最低だな。見損なったぜ」
「……」
「シャーロットちゃんからさっき聞いたが、無事に仲間になれたらしいぜ。一週間後に王都を出るんだってよ」
「……」
「このまま別れちまって本当にいいのか?…お前、本当は…」
言い争う声は徐々に小さくなってゆき、そこから先は聞こえなくなってしまった。
どうやら歩きながら話していたらしい。
人の気配もなくなったところで、イザベラはおそるおそる室内を飛び出し、ギルド協会を出た。
(どうして…?)
イザベラの胸は冷え切っていた。先ほどの二人のやりとりが頭から離れない。
(あんなに親身に私のことを考えてくれていたと思ってたのに…全部嘘だったの?)
(わざと…紹介しなかったって…そんな…)
ズキズキと胸が痛む。理由はわからないが、あの真面目なロビンにそこまでのことをさせる要因がきっとイザベラにあったのだ。
(彼に…謝らなければ)
そして、出発することも自分の口からちゃんと伝えたい。仲間が見つかったことも。
(会いたくないなあ…)
あんなことを聞いてしまった後だ、一体どんな顔をして会えばいいというのか。
イザベラの頬には知らぬ間に一筋の涙が伝い流れていた。




