3 キャラメイクに異議あり
ゆっくりと意識が浮上する。
再び目を覚ました場所は、見知らぬ部屋のベッドの上だった。
「……ゲーム始まった?」
身体を起こすと、さらりと肩に絹のような髪がかかる。その色は見事なプラチナブロンド。
真っ直ぐで艶のある髪は、腰ほどまでの長さだった。
もちろん記憶の中の自分の髪の色とは異なる。
おそるおそる身体を見てみると、シンプルな布の部屋着らしい生成色のワンピースを着ていた。
体型はどちらかといえば細身であるが、そのわりに胸の膨らみがある。
(結構スタイルいいな…あまり主人公っぽくないというか…)
恋愛ゲームの主人公といえば、全てにおいて平均値でありながら、数々のハイスペック男子を落としていくというのが王道ではあるが。
「ビジュアルも変更できるんなら、お願いしておけばよかったなあ…」
どうやらここは主人公の部屋らしい。ざっと部屋を見渡した。
この世界の生活水準は定かでないが、おそらく一般家庭レベルだと思われる広さの室内。
こざっぱりとした部屋の奥に姿見があったので、ベッドから起き上がりそちらへと向かい姿見の前に立つ。
「えっ、…これ…私…?」
上がった声は喜びというよりも困惑の色を孕んでいた。
姿見で困った顔を浮かべているのは、絶世の美女…と言ってもまあ差し支えないだろう。
美しいプラチナブロンドに、つり上がった青色の瞳は切長で、一言で表すならクール系。何なら身長も多分高めだ。
可愛いよりカッコイイ系。年齢は20代前半といったところだろうか。
キャラクター一覧に居るとすれば、どう見てもライバル役のポジションだろう。
恋愛ゲームの主人公にしては、あまりにも強すぎるビジュアルに思わず目眩を覚えた。
「いやいやいや、これ逆に難易度上がらない?」
こんな勝気美女が男に迫ったら、ハニートラップとでも思われて警戒されそうですらある。
通常であればこんな美女になれるなんてラッキーと小躍りするところだが、如何せん今の自分は恋愛ゲームの主人公なのだ。
もしかすると攻略キャラより(物理的に)強そうですらある。
前途多難を予感して、思わず頭を抱えてしまった。
しかし、まあここはゲームの世界なのだ。もしかしたらこの世界では可愛い系より美人系の方がモテるのかもしれないな、なんて早々に気持ちを切り替えていると、階段を登る足音が聞こえてきた。
早速攻略キャラのお出ましか?と扉をじっと見ていると、開かれた扉から、主人公の母親らしい女性が現れた。
「あら…起きてたのね、イザベラ」
(イザベラ!私イザベラって名前なの!?)
名前ですらなんだか強そうで、思わず遠い目になるイザベラであった。
「どうかしたの?」
「いえ、…なんでもない…わ」
口調もいまいち分からなかったが、とりあえずイザベラっぽい感じの口調を心掛けてみることにする。
優しげに微笑む母親らしき女性。ゲームらしく若々しさが溢れており、見た目だけでいうと母というより姉である。もしかしたら姉なのか?
「今日はお父様と出掛けるんでしょう?お父様ならもう下で待っているわよ」
「えっ、そ、そう…だったわね。すぐに行くわ!」
どこに行くんだろうと疑問に思ったが、父が連れて行ってくれるのであれば任せておけばいいだろう。
とりあえず(多分)母親にそう告げると、急いでクローゼットからシンプルな黒いワンピースを取り出して着替え、一階へと駆け降りた。
木のダイニングテーブルに座っているのがおそらく父親だ。
顔を覗き込むようにして隣へ立つ。
「お父様、お待たせ致しました」
「……ああ、イザベラ。おはよう」
メガネを掛けた優しげな風貌の(多分)父親に微笑まれる。
ぶっちゃけ服を着替えただけで手ぶらであるが、何か持ち物は必要だっただろうか。
念のため一通り探してみたが、スマホ的なアイテムはこの世界には存在していないようだった。
「それじゃあ出掛けようか」
「はい」
特に指摘されなかったので、手ぶらでよかったらしい。
父が立ち上がり外へ向かったので、その少し後ろを歩いて追う。
こうして、母の「行ってらっしゃい」という声に見送られ、イザベラは父と共に何処かへ出掛けることとなったのだった。