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29 最終試験

ローザから与えられた最終試験当日

朝食を済ませたイザベラは、早速チャレンジに取り掛かっていた。


「……光よ…!」


薬草採取を邪魔するモンスターの弱点を目掛け杖を振って魔法を放ち、一体ずつ確実に倒していく。

空を走った稲妻が正確にモンスターを撃ち抜くには、かなりの集中力を要した。


魔法には火・水・風・光・闇と五つの属性が存在し、それぞれの属性が耐性と弱点を持っている。

また魔道士と魔法の相性もあるようで、イザベラは特に光魔法との相性が良いようだった。


(黒魔道士なのに光魔法と相性がいいってちょっと笑えるけどね…)


ただ相性が良くとも欠点はある。イザベラが主に使う光魔法といえば、天を貫く雷。気を抜けば無造作に周辺へと降り注ぐ雷の操作にはかなりの苦労を要した。

そして現在も範囲魔法は禁止と言われているため、雷の出番はやや少なめである。


「くっ、…風よ、切り刻め…!」


イザベラに襲い掛かってきたゴブリンに向けて、風魔法を放つ。

ゴブリンが近づく前に倒すことは出来たが、魔力の消耗が凄まじい。


「やっぱり魔法攻撃だけじゃきつい…!この先に進むなら物理攻撃も覚えないといけないわね」


いつもよりもハイペースで魔法を放たなければならず、イザベラの息はすっかり上がっていた。

確か魔法使いでも物理攻撃は可能なはずだ。物理職に比べて威力が下がるとしても、接近戦にある程度耐え得るに越したことはない。


肩で息をしながら何とか薬草を全て採取し終えたイザベラは、魔法商店に向けて全速力で走った。



「で、できました…っ」

「ぎりぎり時間内ね。成分を確認するから貸して頂戴」


息も絶え絶えに魔法薬を調合していたイザベラを観察していたローザへと、完成した魔法薬を提出する。

思いがけず真摯に魔法薬を眺めるローザに、イザベラは緊張のあまり吐き気を覚えていた。


永遠とも思えるような実際には5分ほどの時間が経過したのち、ローザがイザベラに目を向ける。


「……やるじゃない、及第点よ」

「本当ですか…!」


ローザが及第点しか出さないのはいつものことである。それに経験上、ローザの言う及第点はかなり満足のゆく出来であるということが分かっていた。

緊張で強張っていたイザベラの表情が見るみるうちに興奮で輝く。

嬉しさのあまりローザに抱きつくと、ローザは眉根を寄せてうんざりした表情を浮かべながらもイザベラをそのままにしてくれた。


「じゃあ合格祝いをしましょう。夕食の支度よろしくね」



ローザと夕食を共にした後、ロビンを探してイザベラは共に過ごした展望台を目指していた。

(ロビンにはあんなに親身に相談に乗ってもらったんだし、ちゃんと報告しておかないとね…)


木の螺旋階段を登り終え、覚えのあるスペースへ足を向けると、先日と同じように王都を眺める彼の姿があった。


「ロビン…こんばんは。ご一緒しても?」

「……イザベラ。もちろんだ、今日も良い夜だな」


イザベラの声に振り返ったロビンが、顔を綻ばせた。

並んで立ち、輝く王都を眺める。相変わらず美しい景色が広がっていた。


「どうかしたのか?」

「ええ、貴方に伝えたいことがあったの」

「なんだ?」

「実は今日、師匠の最終試験に合格することが出来たのよ」

「それは!…めでたいな。祝福しよう」

「ふふ、ありがとう」

「……俺からもお前に伝えておきたいことがある」

「何かしら?」

「お前と初めて会ったとき、俺は嫌な態度を取ってしまったな」

「え?」

「魔法商店のことだ。実はあまりいい話を聞かなくて…どうしてそんなところに用があるのかと警戒してしまった」

「ああ…いいわ、気にしてないから」


(なるほどね。まあ確かにあの外観の怪しさに加えて、ローザ自身も客商売には全く向いてないし…妙に色っぽいから、変な噂が広がるのも納得だわ。ロビンが気にしてくれてたのは意外だったけど)


ロビンの律儀さにイザベラは口元を綻ばせた。


「お前が魔法商店で楽しそうに過ごしているのを見て、俺は自分の考えが間違っていたことを知った。根拠のない噂に惑わされるなど、あってはならない事だ。お前には本当にすまないことをした」

「えっ?いえ、本当に気にしてないから大丈夫よ」


放っておいたらいつまでも謝り続けていそうなロビンを慌てて止める。そして今度はイザベラが口を開いた。


「貴方に聞いて欲しいことがもう一つあるの」

「…?」

「明日、Dランクのクエストを受けようと思ってる」

「え?でも仲間は…」

「実は一人見つかったの、剣士なんだけど。そいつが早く受けようってうるさいのよ」

「そうか、明日俺は休みなんだ。無事にクリア出来るよう応援している」

「そうなのね、ありがとう。クリア出来たらまた報告するわ」

「ああ、楽しみにしている」

「じゃあ、私そろそろ行くわね」

「そうか、気を付けて」

「ええ、またね。良い夜を」


イザベラはロビンと別れを告げ、その足でリアムの滞在している宿屋へと向かった。

明日クエストを受けることを彼に伝えなければ。

Dランククエストがどの程度難しいのか定かでないが、いざという時はリアムを文字通り盾にしてやればいいのだ。

イザベラの足取りは軽かった。


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